2016-05-22

伊寧旅行三日目~イーニン一日目・前編~

「行くよ」
運転手のウーさんがそう言って、いよいよここを去ることに。
時刻は13時半、サイリム湖に着いてから2時間以上が経過していた。

おそらく一周して湖の南側まできたところで、道を逸れ離れていく。
しばらくもしないところで、ウーさんが
「写真、写真」
と私を促した。
向こうに大きな橋が見えた。
確かに巨大な橋ではあったが、日本でも似たような橋を見た記憶があるなぁとつまらない感想を持ってしまう。
とりあえず、減るものでもないし、パシャパシャと写真を撮る。

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「降りて写真撮ってきていいよ」 ただし、早くね。
そう言って降ろしてくれたので車を降りてまたひとり写真を撮る。
速度80㎞の標識。
湖の方角からは車がどんどん飛ばしてくる。
こんなところに車を停めて、なんて日本では考えられない。
「果子沟大桥」
橋のてっぺんには金ぴかの文字が見えた。

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道路の脇を覗けば、こんな景色も日本とは違うなぁと感じる。
緑がやわらかな山肌の向こうには、厚い雲を被った険しい雪山が見えた。
車に戻りその先のカーブを降りていくと。

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あれは先ほど通過した橋。
ぐるりと下に回ってきたことになる。
日本にもありそうな橋だなぁなんて思ったけれど、たしかに新疆にこんな橋があるのはすごいことかもしれなかった。
新疆にはまだ高速動車も通っていないのだ。
そういえば、コルラの友人の北疆旅行記にもこの橋を写した写真があったのを思い出した。
その写真は真っ青な青空。
今日のは雨の中だけれど。

ここは果子沟という場所のようだ。
しばらく走って、山の景色から開けた風景に変わった頃、また検問があった。
車が渋滞しているなあと思ったら、その先には公安の建物があり一台一台全員降りて建物内の検問を通過しなければならないようだ。
車を降りて列に並ぶ。
身分証を提示しては、みな次々とゲートをくぐっていく。
しかし私の番になってパスポートを提示すると、待ったがかかってしまった。
脇の別室の方に呼ばれ、公安から何か訊かれるもよくわからなかったので、
「28日の夜に日本から北京に着き、29日にウルムチ入りしたあとここに来て、イーニンへ向かう」 と答えた。
パスポートを何度もめくりなおしている。
欧米諸国の入出国印ならともかくも、ロシアのビザが貼られあとは中国の印がやたら押された私のパスポートは確かに少し変だったかもしれない。

この検問を通過したのちも、またしばらくして検問が。
旅行を通して、数度検問があった。
このような建物がある検問から、抜き打ちのような人だけいて呼び止められるものまで。
銃を抱えた武装警官が、身分証の提示と、車内の検査をする。
前回のコルラで友達の車で街に戻る時にも、そんな検問があった。
大きな銃を抱えた武装警官は、銃を見慣れない私には少し怖いけれど、みんなは慣れているよう。

14時半、小さな街を通過してここでお昼を食べることに。
小さな食堂が並ぶ通りに車を停めようとすると、あるお店のおばちゃんに捕まってしまった。
ウーさんは最初からお店を決めていたようだったが、そこに停めようとしたら隣りのお店のおばちゃんの誘導にあい、もう逃げられない。
「ここじゃないのに、もう…」
日本でも度々見かける光景だ。

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食べたのは羊杂拌面。
羊の肺にレバーに胃に腸に、そんなのが入り混じっている。
このお皿を真ん中にして、みんな自分の麺によそって混ぜて食べる。


伊宁(イーニン)の街に着いたのは、16時過ぎだった。
車の往来も激しく、大きな都市ではないとはいえ、活気ある街だ。

私はこの後の自分の進路がわからなくなっていた。
ロンさんはグーグルアース講座を開いてくれたが、その前に旅程が二転三転していたので自分の頭の中ではすっかり白紙撤回、その場の状況を見て、になっていた。
フェイフェイ夫妻はサイリム湖観光のあと私と別れ、さきに国境・霍尔果斯(コルガス)まで向かう。
私は何日かわからないが、他の街を回ったのちあとからコルガスへ行き再び彼らと落ち合う。
そんな予定ははっきりしていた。
私はこの日、確か霍城というもう少しサイリム湖寄りの街で一泊するような気がしていたので、
「あれ~もうイーニンに着いてしまったよ」 なんて思いながら、このあと自分がどこへ行き誰と落ち合うのかわからなくなっていた。
フェイフェイたちがあるホテルの前で降りて荷物を下ろし始めたので、
「あなたたちはここに泊まるんだね」
なんて言っていると、
「二人じゃないよ、マーヨーズもここに泊まるんだよ」と。
そうかそうか、慌ててて支度をする。
料金620元をフェイフェイが払い、運転手のウーさんとはここでお別れ。
ウーさんとは、「今度日本の物を買いたいときに頼むよ」と微信を交換したが、実は心の中では(これ以上は無理~)と悲鳴を上げている。

宿泊するのは邮电宾馆。
街中に位置して行動はし易い。
部屋に落ち着き、シャワーを浴びてから行動を再開することに。
シャワーが冷水しか出ずに焦るが、以前にウルムチのホテルで「熱」と「冷」が逆だったことを思い出し、なんとか苦心してやっと温水を出すことに成功した。
あの時、「熱水が出ない」と部屋を替えてもらおうとしたが、ロンさんがやったらすぐに温水が出た。
「日本人はこうだから…。熱と冷が逆かもしれないとどうして想像してみないのか」
はぁ…、と溜め息をつかれてしまった。
しかしまさか、「冷」で温水が出るとは思わないだろう。
今回は逆ではなく、かなりの時間粘れば温水がでたという結末。

17時半、フェイフェイが私の部屋をノックして「行くよ」と声をかけてきた。
下に下りてみると、車が来ている。
また違う運転手さんにきれいな女性。
そういえばロンさんは、知り合いの女性ガイドさんが迎えると言っていた。

このあとの予定が全然わからないで、車に乗りイーニンの街中を走る。
青空に白い雲。
先ほどまでの天候が嘘みたい。
「ホテル見つけてくれてありがとう」
フェイフェイがガイドさんに言った。
どうやらイーニンに着く前に電話でガイドさんにお願いしてあったみたい。

車から降りたのはホテルからそう離れていない、街角だった。
「喀赞其民俗旅游区」の文字に、イスラム調の大門。
ここはウイグル族の生活風景を観光できる場所だ。

運転手のおじさんは言った。
「新疆人のあなたたちでもこんなの興味があるの?見慣れてるでしょうが」
「自分たちは興味ないよ。彼女日本人で、彼女に付き合って見て回るんだよ」
チャンさんがそう答える。
そうか、そうだよな、二人は新疆人だしきっと珍しくもなんともないよな~。

イスラム大門をくぐると、私たちはすぐ脇の建物に入った。
ここで、この旅游区のガイドさんを申し込むよう。
ガイド案内所には、何人ものウイグル族の女性がいた。
デスクにはたくさんの化粧品や鏡など。みんな美意識が高い。
私たちに付いてくれた女性ガイドさんももちろんウイグル族。そして流暢な中国語を話す。
「中国語、上手だね」
フェイフェイが褒めた。
先ほどのガイドさんと運転手さんはここで待っているようで、ここからは、フェイフェイ、チャンさん、ウイグルガイドさん、それから馬と御者のおじいさん、の合わせて5人と1頭で。

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馬車はウイグルのアトラス織で彩られている。
椅子があるのではなく、馬の後ろに取り付けられた平台に各々腰をかける。

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馬はリズムよくカポッカポッと歩いて行く。
それに合わせて鈴がなる。ウイグル族の伝統的な住居の合間を縫って行く。
熱くも寒くもない、気持ちの良い気候だった。
ウイグルの住居群は色鮮やかであり、爽やかであり、空の青さと街路樹の輝くような緑によく合っていた。
なんて気持ちいいんだろう。
幸せな気分に浸った。

隣りにはフェイフェイ、その隣にウイグルガイドさん。
ウイグルガイドさんは中国語でまくし立てていたが、フェイフェイが相槌をうっているので私はもはやまったく聞いていなかった。
ただ風景を楽しむことに集中し、ガイドさんの言葉はBGM。
「聞き取れた?」
フェイフェイが訊いてきたので、「聞いてなかった」と答えたが、多分ちゃんと聞いても話していることはわからなかったと思う。
後ろにはチャンさん。
フェイフェイがスマホでいろいろ撮影しているのに対し、後ろで男ひとりになったチャンさんはちょっとつまらなさそうにも見えた。
先ほどの言葉を思い出す。
興味ないけど付き合ってくれてるんだよな~。
私はやっぱり何回中国へ来ても外国人観光客だ。
こんないかにもな馬車なんか大好きだ。

写真を撮りたい風景がたくさんあるのに、馬車の速度はゆっくりしているとはいえ、それを許さない。
あの家きれい!そう思ってシャッターを切ると、街路樹が中心に映ってしまう。
あの充実した気分をかたちに残せなかったのは残念だが、「五感で楽しむべし」ということかも知れない。
旅行中スマホですら写真を撮ることが少なくなった親友が以前話していたのを思い出す。
「写真ばかり撮っていると結局なんにも見ていないから」
それでも諦めきれない私は、スマホで動画を撮影することにした。
これなら、あとから見ても馬車気分に浸れる。
しかし帰宅後その動画を母に見せると、
「ずっと馬のお尻しか映ってないけどこれなに」 という感想。
けれど、パカッパカッという馬の蹄の音とリンリンという鈴の音は、今でも私の記憶をくすぐるのに十分だ。

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かろうじて撮影に成功した清真寺(イスラム寺院)。
やっぱり清真寺が好き。美しいからだ。
初めて訪れた清真寺は西安の中華風のものだったが、私はやっぱり西域のものが好き。
ロンさんへのリクエストのひとつに清真寺を並べていたが、完全にスルーされた。
たぶん当たり前すぎて、そんなのどこ行ってもあるだろう、という感じだったかと思う。

途中で馬車を停めてくれた。
ウイグル族の美しい邸宅をひとつ覗かせてもらう。

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こんなにも鮮やかな扉。
グイグルの子供がうろちょろする。

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扉をくぐると、正面にはこのような主な建物があり、左に附属的な建物と半屋外になったひとつの空間がある。
ちょうどL字型になった具合だ。
絡まっているのは葡萄だ。
建物には細かな細工が施されていて彼らの美意識を伺うことができる。
庭には葡萄だけでなく、様々な植物・果樹が植えられていた。
それだけでなく、何かの植木鉢も所狭しと並んでいる。
私たち日本人の多くとは、豊かさという言葉が持つ概念がまったく違うのだという気がした。

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ウイグルのかわいい女の子。
ウイグル族の生活区域を回っていて感じたのは、子供の多さとその元気さだ。
子供の姿を見て、その場所の豊かさを知る気がする。
もうひとりの男の子は、昨日酸っぱい思いをしたあの青い杏をくれた。

また違うお宅に。

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こちらは目が覚めるかのような青を基調とした建物。
やはりこちらにも葡萄が育てられている。
白い壁に、鮮やかな青、その合間に緑や赤が隠れている。

ウイグルガイドさんが説明をしていたが、相変わらず私はなんにも聞いていなかった。
けれど、ふと耳に入ってきた。
「ウイグルは三つの色を大事にしているんです」 それは、青、緑、そして赤。
青は、天空、水の恵み、それから純潔、清らかさを。
緑は、葡萄、果物、あらゆる実りを。
赤は、情熱、人の思いを。
それぞれ意味しているんだそう。
「だから、ウイグルの絨毯はみんな赤でしょ?」 たしかに。
たしかにウイグルの生活風景には、これらの三色を基調としたものが多かった。
こんなにも鮮やかで目を惹くような色彩、デザインでありながら、この眩しい輝くような風土に馴染んでいる。
私にはそれが矛盾した感覚のように思えて、どうにも不思議だったが、ようやく納得できた。
鮮やかな青は、広がる天空の青さ、先ほど見たあの湖の青さ。
目が覚めるような緑は、これらの豊かな果樹の輝き。
だから、馴染んで違和感がないのだ。だから、こんなにも美しいんだ。
これがもし東京や他の都市にあったならば、これらの色彩は一瞬で失われてしまう気がした。
ここにあり、彼らの生活と共にあるからこそ、これらの色彩は意味を持つ。

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ウイグルの邸宅は基本的に構図は共通したものがあるようだ。
こちらもL字構造になっていて、縦に伸びる建物の入り口側には、半屋外の空間があった。
なんだか、とっても気持ちが良さそうだ。
素敵なお宅だな、と心から思った。

縦に伸びる建物に入れてもらえた。
ガイドさんの話を聞いて、フェイフェイが教えてくれた。
「右足からね」
けれど、突然そのように言われて何が右足かわからず左足から侵入してしまった。
「ダメ、ダメ!右足から!!」
あ、そういうことね…。
左足を戻し、右足からやり直す。やり直しで問題なかっただろうか。
右足からの厳格さがわかっていないので、どれくらいの失態だったかは定かではない。
中国は土足の習慣だが、ウイグルのお宅はきちんと靴を脱いであがる。
絨毯が心地よかった。

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こちらが入って正面の部屋と言うか、空間。
いきなりテーブルがある。
さっそくフェイフェイが中央に座ってチャンさんが写真を撮っている。

この空間の左右にそれぞれ部屋がひとつずつ。

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説明を忘れてしまったが、それぞれ目的があり、どちらかが客人が来た時に寝室になる部屋だそうで、布団も収納されていた。
たくさんお客さんが来た時はね、この両方が寝室になってみんないっぱいになって寝てもらう、そんなふうにガイドさんは説明した。

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ウイグル初めイスラム文化圏の食器が好き。
彼らが“美しさ”を大切にしていることを感じる。
奥にあるのは一族の集合写真だろうか。
こうした写真はところどころにあり、仲間意識が強く、皆で助け合って生活をともにしている一体感が伝わってくるようだった。

L字の縦の建物を出て、今度は正面の建物に入っていった。

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本当に豪華なお宅だ。
私は今まで、ウイグルのお宅がこんなにも立派なものだとはこれっぽっちも思っていなかった。
偏見は承知だが、簡素で質素な住居を想像していたのだ。
もしかしたら、特別豪華なお宅を訪問させてくれているのかも知れなかったが、見た印象これらだけが特別なお宅、というふうにも思えなかった。

奥の部屋には工芸品が並べられていた。
観光客に向けたものだ。

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これが、こうなる。

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すごい細工だ。
二年前のウルムチで見た工芸品にもこんなものがあった。
お盆のような木の板が、伸ばすと立体的になるのだ。同じものがここにもあって、懐かしい。
他にも、私が求めていた煌びやかな茶器や工芸品。
宝石のように美しくて、ウルムチの時にはロンさんの「不买!」で買うことは叶わなかったが、今こそ買うことができる。
ここのお宅のおじさんも買って欲しいみたいだった。
フェイフェイにこそっと訊いてみる。
「高いかな?」
「…買っちゃダメ!」
彼女は険しい顔をしながらこそっと答えた。
ちょっとおじさんに悪いような気がして胸が痛む。でもきっと高かったのは間違いない。
だから、私は甘いんだ、自分でもそう思った。

外に出ると、ウイグルの恰幅の良いおばちゃんが、小さなコーンにアイスクリームを盛ってくれた。
ウイグルの特産なんだそう。手作りだ。
キャラメル味で、これがとびきり美味しかった。日本にあるどんな高級アイスも負けないだろう。
フェイフェイが毅然とした態度で訊く。
「タダだよね?」
おばちゃんは善意で、観光客へのふるまいだった。
私は少し胸が痛んだ。
だから、私は甘いんだ、こんな甘さはいらない甘さだ。
そして、そんな甘さで生きていける環境にあるからこそだな、と思った。



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実用品でないと買わない人と、記念だから買う人。
おもてなしなのか販売なのか、曖昧でもかまわない人と、はっきりさせてからいただく人。旅の人間模様みたいなのが出てますね。
微妙な駆け引きですが、旅の主導権をどちらかが握ってしまうと、お互いの関係が微妙になってしまうかもしれません。
旅がそんな風になっていないので、微妙な心の行き違いも、ハラハラしないで見ていられます。
ところでロンさんやフェイフェイさんなどの登場人物、僕が素通りしてしまったのかもしれませんが、漢族なのかウイグル人なのかよくわかりません。
でもあまり重要ではないので、このままにしておこうと思います。

Re:

同行者の旅行の方向性や主義が違うと旅は難しいです。
たかがお土産ひとつとっても。見たいものにしても。現地でのコミュニケーションの取り方にしても。
だから私は一人旅派なんです。
けれどおっしゃる通り、微妙な風にはなってないんです。今回旅程を共にした人たちは私を尊重してくれたし、相性が良かったというのあります。
海外では確認すべきところはしっかり確認すべきだと思うし、私も基本そうするのですが、性格としてそういうの不慣れなんです。
そういう訳でぼられることも多々ですが、諦めています。
中国では騙されたら騙された方が悪い。
日本ではあり得ない考え方ですが、だから日本はぬるいなと思います。

ちなみに、ロンさんは漢人、フェイフェイは蒙古人です。ウイグルの友人もいますが、もうずっと連絡をとっていません。
プロフィール

まゆ

Author:まゆ
中国が大好き。お酒も大好き。
中国へ行く度に、スケールの大きさに圧倒されます。各地を旅行し街歩きし、体感したことを綴っていきます。

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