2016-05-22

伊寧旅行四日目~イーニン二日目・前編~

2016年5月1日、目が覚めたのは8時。
朝日が昇り間もない。
昨晩フェイフェイたちとは、起きたら連絡し合おうということではっきり時間を決めていなかった。
疲れと寝不足がたまりうつらうつらしながら、ようやくホテルを出発したのは11時。
「朝ご飯どうする?」 というの話になったが、おなかは空いていなかった。
彼女たちもそんなに空いていないというので出発することに。

出発するといっても、私は相変わらず今日一日のスケジュールをしっかり把握していなかった。
今日はフェイフェイたちは私と別れ、先に国境・霍尔果斯(コルガス)へ向かう。
一方私は、ここイーニンでロンさんの親友・ルオさんと落ち合い、その後、新源へ向かい観光する。
昨晩、ルオさんの連絡先を教えてもらったばかりだ。
しかし、どういう段取りでそうなるのかわかっていなかったので、成り行きでいこうと考えていた。

歩きながらフェイフェイに尋ねる。
「これからどこへ行くの?」
「工人街へ行くよ。歩いてく?それとも車に乗ってく?」
「どれくらい?」
「1.5㎞」
「あなたはどうしたい?」
「私はどっちでもいいよ」
「じゃあ、歩いてく!」
そういうことに。

工人街って通りの名前のはず、何があるんだ?
「先生(ロンさん)がお勧めしてたとこだよ」
ロンさんは教師ではないが、色んな人に“先生”と呼ばれている。
ちなみに“ロンさん”は本名ではなく、私だけが呼ぶあだなだ。

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途中、おいしそうなものを見つけては買って歩きながら食べる。
お店でゆっくりもいいが、こういう食べ歩きは旅行ならではで幸せな気分。
小さく寂しく一個写っているのは、皮包子。
インドナンのような生地の中には、ジューシーな羊肉の餡。すごく美味しい。
別のところで普通の包子も見つけてはそれも食べる。
「これも羊肉?」
「ここのは全部、羊肉だよ」

そうこうしているうちに、工人街に着いた。
チャンさんはスマホの地図アプリで探しながら誘導してくれた。

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けれど、のどかな生活風景はたしかに素敵で私が見たかったものだけど、ロンさんがそれだけでここを勧めるとは思えなかった。
今までなんどかそれで討論をしているからだ。
「私はあなたたちがなんとも思わないような、普通の風景が見たいの。それが好きなの」
「そんなの見てなんになる。わざわざ来るのにそんな何もないところに行く意味はない」
「私は外国人だから、あなたたちの普通がおもしろいんだよ。絶対わからないよ」
こんな感じだ。

周囲にはカラフルな住宅が並び、通りがあちらこちらに伸びている。
説明板があり、それでわかった。

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ぼろぼろに壊れているが、これはここ一帯を上空から見たものだ。
思い出した。
ロンさんのグーグルアース講座の時、イーニン市街のある部分を拡大しここを見せてくれたのだ。
通りがきれいな六角形を複数に作り出し、それはすぐに目を惹いた。
中国でこういった街の形状は珍しいだろう。
大連のあの円形から放射状に道路が伸びた広場を思い出したが、あれはパリを模して造ったものではなかったか。

この説明板によると、民族の団結と調和、発展を目指し“一家”となることがこの場所の核心的意義のよう。
「三情」、「五変化」、の文字。
「三情」とは、1:伝統文化と現代文明を結合した民族風情。2:各々民族が苦楽を共にした故郷への情。3:水よりも濃い血縁の情。
「五変化」とは、1:居住環境は美しく、2:出入りは便利に、3:収入は増加し、4:幸福指数は向上し、5:住人の心は晴れ晴れとし。
この六角形は、大きく工人大街、黎光大街、赛依拉木大街の三つの大街から形作られ、これはすなわち民族団結の模範となるべく整えられた街並みといったところのよう。

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ここはその六角形の中心部。
けど、その場にいると六角形なんて全然わからない。
「ほら、ここからあっちにもこっちにも道がある」
チャンさんが指さす。
たしかに四方から道が六条ここに集まっている。

チャンさんはスマホとにらめっこしながら引っ張って行ってくれる。
その都度行きたい方向を訊かれ答えたが、実はどこのどのへんを進んでいるのか全然わかっていなかった。

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この道路標識。
蜘蛛の巣状の六角形ならではだ。
先ほどの説明板には“六星街区”という表現がされていた。なるほど、六星とはおもしろい命名だ。

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目に見えるものすべてが美しい風景だった。
カラフルなペンキで彩られた住居の数々。
これはお店のようで、女性がなにかを買っている。

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見えるのは粒々の実がついた箒。日本ではもうあまり見なくなった。
それにスプレーでウイグルの文字。
右が、「石灰」
左に、「纯菜孜油20元」の文字。

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鮮やかで目を惹く一軒のお店を見つけ、入ってみる。
中は狭い商店とも食堂とも言えない一間。
静岡には駄菓子屋を兼ねたおでん屋さんが昔からたくさんあるが、あれを思い出した。
棚にはお菓子やいくつかの食品が並び、ガラスケースにはお店で作られたと思われる食品が並んでいる。
一間を占領しているテーブルには、ウイグルのおじさんとお兄さんが腰かけてお店のおばちゃんと世間話に花を咲かせていた。
そこにお邪魔する。
並べられている食品はロシア語のものばかりだったから、もしかしたら哈萨克(ハザク)族だったかもしれない。
けどお店にはウイグル語の表記があったからやっぱりウイグル族だろう。

ガラスケースの中を覗いてフェイフェイが、
「これおばちゃんが作ったの?」 と訊いている。
「そうだよ~」 おばちゃんにこやか。
そこでチャレンジしてみることに。

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お椀に一杯。
姿と食感は、ぐちゃぐちゃにしたモッツアレラチーズ、味は無味にかすかなミルク感。
奶皮子、ヨーグルトを発酵させて作ったものなんだという。しかし、ヨーグルト自体が発酵して作られたものでは。
私の顔は強ばった。
同じものを食べているフェイフェイが、「おいしい?」と訊いてきたので、
「口に合わない」 と素直に言う。
おじさんとおにいさんがそれを聞いて、苦笑い。
作ったおばちゃんには悪いが、私が日本人で旅行で来ていることを知っていたから、異文化ということで失礼にならないことを祈る。
「私も口に合わない」 フェイフェイが顔をしかめてこっそりそう言った。
私なんか、三口で限界がきた。

もうひとつ、麻花(ねじった揚げパンのような甘くてめちゃくちゃ硬い天津のお菓子)に似たものがあったので、食べてみる。
見た目は麻花だけど、柔らか。これは甘くて美味しい。
「麻花に似てるね」 と言うと、
「麻花との違いはハチミツを使っているとこだよ」
それよりも硬くないのが一番の違いだと思うけど。

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一昨年のロシア・サハリンを思い出した。
サハリンの街並みの美しさに共通するところがあった。
カラフルな色彩で溢れながらも、そこにはまた白の美しさがあった。
街路樹の緑は輝くばかり。
そして建物はどれも美に凝ったものだった。
これはただ私の印象だけではないだろう。
ここイーニンはカザフスタンとの国境手前。すぐそこにはロシアという地だ。
文化的にもロシアの影響を強く受けている。

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歩いて行くと、ロシア学校もあった。伊宁市俄罗斯学校。

道端にはさまざまな樹木が立ち並んでいる。
これは胡桃、桑葚、チャンさんが教えてくれる。
「桑葚は食べたことがあるよ、5月に実を落とすんだよね」
こぞってみなその実を拾うんだそう。きっともう少ししたらだ。
けれど、あの深い紫色の実はまだどこにもなかった。

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どこを歩いても違った面持ちの家々、見て飽きない。
ウイグル族初め、様々な少数民族がここで暮らし、その表情からは平穏な毎日が見て取れた。
イーニンにはたくさんの公安があり、武装警察もたくさんそこかしこに配置されているが、こうして生活区を歩いているとそんなのが全部嘘みたいだ。
この街に危険要素があるとしたら、一体どこにそれは潜んでいるのだろう。

街角でチャンさんやフェイフェイがウイグル人に話しかける。あるいは話しかける。
「彼女日本人でね、旅行でここまで来た」
そんな話もすれば、何気ない話もしていた。
多くが中国語を解するようだったが、激しいウイグル訛りがある人もいた。

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青、緑、赤、この三色をウイグルは重んじるのだと言っていた。
しかし圧倒的に多いのは真っ青な天空を連想させるような青だった。
青にも色々あるが、ここにあるのはすべて空の青さだった。
空の青、すなわちそれを写した水の青、そして宇宙の青。
すべてを統括する神がおわすところであり、緑が意味するあらゆる実りも、赤が意味する情熱も、空の青さがなければ存在すらしない。

チャンさんがスマホでどこかを探している。
こちらの道に進み「行き過ぎた」と言い、あちらの道に行き「間違えた」と言い、探しているのは。

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教会だった。ロシア教会だ。
一人のおじさんがいた。
扉のところには、美しいロシア人の女の子、ドレスがとっても素敵だった。
入っていくと中からおじさんが出てきた。

「彼女日本人でね、中を見てもいい?」
「もちろん、もちろん」
おじさんは紳士的な笑顔で快諾した。
「どこの人?」 チャンさんがおじさんに訊く。
「どこの人に見える?」 そう逆に訊き返される。
おじさんはロシア人でした。
「二人はどこの人?」
「蒙古人、内蒙古だけどほとんど中国人も同じだよ」 フェイフェイがそう答えるのを聞いて、彼女が漢族ではないことを初めて知った。
「ウルムチ」 チャンさんは簡素にそう答える。

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教会の中はこれ以上は撮影はダメ。
中には、イエスやマリアの絵画がたくさん飾られていた。

教会を出ると、おじさんは裏手に私たちを連れていった。
裏には草木が生い茂っていた。ところどころに花が咲いている。
荒れ放題とも言えるが、そこには平安があった。
自然のままに伸びている雑草の合間には、ぽつん、ぽつん、と墓標が頭を覗かせている。
サハリンの共同墓地を思い出した。
あそこもまたこのように草木がなすまま生い茂る中、このような数々のお墓があった。
お墓のかたちも似ていた。
手入れが供養の意味合いを持つ日本のお墓とは対極で、雑草の中にどんどん埋もれお墓までもが朽ちて行くことが魂の平安のように感じられた。

雑草の合間を、四人で奥に抜けていくと、ひとつの立派なお墓があった。
説明書きがあったが、ほとんどその内容は読んではいない。
おじさんは中国語で説明をしてくれたが、私にはよくわからなかった。
軍服を着た男性の古い写真があった。
どうやら戦争の頃、新疆で戦い若くして命を落とした勇士のお墓のようだった。
「マーヨーズ、祈って」 フェイフェイが私に言う。
どう祈っていいかわからず、私は日本式に手を合わせた。
戦争の足跡は各地にあるが、新疆ウイグル自治区にどのような歴史があるのか、知らないどころか考えたこともなかった。
この地に近代戦争の影響があったとも思ってもみなかったのだ。

ふたたび教会へ戻る時、お墓のある大きな木の下で、
「一緒に写真を撮って」と頼まれた。
おじさんは笑顔で私の肩に手を置いた。

「話していることわかった?」 教会を出たあと、フェイフェイがそう訊いてきた。
おじさんの中国語はたいへん流暢だったが、ロシア語訛りがあった
「ほとんどわからなかったけど、少しわかったよ」
戦争の時にここにきてそれからずっとここに住んでるんだよね?
そう言うと、フェイフェイはまくし立てた。
そう、第二次世界大戦の時にここに来た。
私、ずっとすごく怖かったんだよ。
マーヨーズが日本人だと彼がわかってから、怖かった。
彼は戦争で被害に遭っているから、日本人に対してどう感じるか。
「でも、彼はそんな感情すこしもなかったよね、笑って写真も撮ったよ」
「うん、そんな感情なかった。ほっとしたよ」
おじさんはそんな年齢には見えなかったから、戦争でやって来た人の子供かも知れない。
それからこう続けた。
日本人も中国人もみんな今はもう戦争をしたくない。それは同じでしょ?
あのおじさんは私たちと同じだよ。
昔のことは昔のこと。
戦争はあったけど、だからといって憎まない。
「すごく怖かったけど、安心したよ」
フェイフェイは興奮して何度もそう言った。
それはそのまま中国の日本に対する感情が、今彼女が話したように「昔のことは昔のこと」にはなっていないことを逆説的に伝えているようにも聞こえた。



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おじさんというのは、元ロシア人で、その親が粛清かなにかでイリたどり着いたということでしょうか?
戦争というのは、その人のヒストリーを語る上で皮肉にも、時には重要な要因であったりするようですね。また、おじさんは文革世代になると思います。
いずれにしても、シルクロードというのは、時に民族の悲劇が延々と繰り返された土地でもあり、そんな歴史のアヤように刻まれた、老人の額の皺も僕は好きです。
それより、蒙古人、露西亜人、日本人、(それにその中にウイグルや漢族もいれば、その人数だけ)が集まるのは貴重な体験だと思います。

Re:

戦争でここに来たということしかわからなかったんです。
でも、楽しむだけじゃなくてこうした側面に触れるのも旅行の中で大事だな、と思っています。

多民族国家である中国の中で、新疆ウイグル自治区は特に他民族が入り混じっていますよね。
私には、文字とかそういう情報がなければ、ここではみんなウイグル族に見えてしまいます。
でも、中東に繋がる文化、ロシアに繋がる文化、中華文化、ヨーロッパ系の文化…色んな文化・民族が入り混じり、民族ごとにはっきり分かれていないようなこの雰囲気が好きです。
同じ少数民族の宝庫、中国南方とはまた違った多彩さだと思います。
確かにこの地で色んな民族が一堂に会するのは感慨深いものがあります。日本人が珍しがられるのも何故か心地よかったです。
プロフィール

まゆ

Author:まゆ
中国が大好き。お酒も大好き。
中国へ行く度に、スケールの大きさに圧倒されます。各地を旅行し街歩きし、体感したことを綴っていきます。

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