2016-07-26

秦皇島旅行三日目~その三~

老龙头を出て、次の目的地は予め決まっていた。
“孟姜女庙”
中国各地に散らばる孟姜女にまつわる廟の中で、もっとも早期に造られたものだ。

ここで私は失敗をしていた。
行き方がわからず事前に調べる際に、何か中国語のサイトを覗いてみたのだけど、その時「25路のバスに乗り南海村で下車後1㎞徒歩」とメモをしていた。
南海村はただ今の老龙头からひと駅戻っただけの位置にある。
地図を見てみれば方角が全然違うことは一目瞭然なのに、私はこのメモを基に行動してしまうのだ。
先ほどふたたび色々検索してみたが、百度はじめいくつかのサイトには「25路のバスで山海关火车站へ行ったあと302路に乗り換える」とはっきり書いてある。…私は何を見たのだろう?

とにかくこのように、老龙头からバスに乗り、車内で「南海村で」と集金係に2元を渡す。
女性は「南海村??」と、怪訝そうな表情をして乗車券を渡した。
それもそのはず、乗ってすぐそこで降りるのも変だが、南海村はほんとうに民家以外なにもなかったのだから。

降りてみて、眩しい日差しの下私は途方に暮れた。
目の前に数軒の民家があるものの、その先には道すらなかった。
まさか、このけもの道のようなところを縫って行けばなにかあるのか?
バス停すぐそこの民家は小さな小さな商店になっていて、表には浮輪がかけられていた。
その店先でおしゃべりをしているおばちゃんに尋ねてみると、「孟姜女庙?」と怪訝な表情。
もう全然検討違いな場所に私は今いるのだった。
「そこに行くには山海关南门に行って乗り換えるんだよ」
あとから見てみるとネットには火车站から乗り換えると書かれていたが、この時はそのような説明を受けた。
「山海关南门からはどれくらい?」
「遠いよ」
「そこから歩いたらどれくらいかかるの?」
おばちゃんはとんでもないというふうに、
「2時間かかるよ!」
おしゃべりの相手をしていた男性も思わず会話に入り、
「歩けない、歩けない!」

こうして、情けない思いで山海关南门まで再び戻り、時間がもったいないのでタクシーを停めた。
「孟姜女庙までどれくらいなの?」
運転手さんに訊いてみると、
「6㎞」
もう、最初からタクシーに乗っていればよかった。
「時間があればこのあと角山长城にも行きたいんだけど」 そう言ってみた。
角山長城とは、長城が老龙头から天下第一关へ続き、そのあと山に続いていくその山にかかる部分。
「時間ないよ、無理だよ」
運転手さんは即答した。
「これから孟姜女庙で一時間でしょ、そこから向かって…やっぱり間に合わないよ」
「角山长城は何時までなの?」
「5時までだよ。着いても行って帰ってくるのに1時間半かかるから…間に合わないって」

孟姜女庙へ到着するも、あたりは何にもない。
タクシーも通らない。
この時は302路のバスで行けるとは思っておらず、バスもないと思った。
帰りが困るので、
「ここで待っていてくれる?」
とお願いするも、運転手さんは困惑して断りたいふう。
「バスもタクシーもないよ、帰れない」 お願いするも、
「うん、ないよ…うーん…」
待つのはダメだけど、一時間後の16時に駐車場で待ち合わせることでOKした。
実はまだ角山长城を諦めていなかったのだけど、16時に待ち合わせたことで期待はさらに薄くなった。

この孟姜女庙、購入したチケットに含まれている為、またまた指紋で入場する。
入ってすぐあるのが、いきなり階段。

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108段あるのだという。
これは仏教の108の煩悩を表しているのだそうで、それはそのまま、孟姜女が経験した苦悩や苦痛をも意味しているのだそう。

孟姜女伝説、これは中国でももっとも有名な伝説の一つだ。

むかし、孟姜女という美しい女性がいた。
彼女には范喜良という夫がおり、二人は仲睦まじかった。
しかし時は秦の始皇帝の時代。
長城の建設にあたって、夫は徴用されてしまう。
そうして彼女の知らないうちに、過酷な労働に苦しんだうえ、人柱にされ長城に埋め込まれてしまうのだ。
孟姜女は夫を探し求め、長城へやってくる。
しかしすでに時遅し、夫の命ないことを知るや、深い悲しみで慟哭した。
すると、長城の壁は次々と崩れ落ち、そこから骨となった夫が現れた。

これが一般的な孟姜女伝説だが、様々な話が語り継がれその詳細はそれぞれ違う。
このあと始皇帝から求愛された孟姜女は、夫を弔ってくれたら求愛を受けるといい、始皇帝がそのようにした後、海に身を投げて自害する。そういう終わり方もある。

圧政の下、多くの人々が苦しみ犠牲になったこと。
権力に屈しなかった孟姜女を讃えることで、人々は勇気を得ようとしたのではないか。
こうした図式は、現代中国にも通じるものがあるのではないか。
孟姜女伝説は表向き純愛物語だが、純愛を隠れ蓑にして、人々は理不尽な力に対して立ち向かいたかったのかも知れない。

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108段の階段の上にあるお堂。
孟姜女が祀られている。
孟姜女庙自体は宋代の創建で、明代1594年に再建されているのだというが。
そんなに歴史あるようには見えない。
古いといえば先ほどの階段くらいではないだろうか。

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ただ、堂内にある篆刻はみごとだ。
右側には「天下第一関」の迫力ある文字。かなりの大きさ。

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左側にも数々の篆刻が並んでいる。

敷地内はけっこう広く、さまざまな建物や見所が散らばっているようだったが、あまり歴史的価値はなさそうなものばかりだった。
正直私はとても疲れていたため、それらを見て回る意欲がわかなかった。

上に登ると見晴らしがいい場所があった。

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見渡してみれば納得、やっぱりタクシーの運転手さんと帰りの約束をしておいて良かった。

中国の観光地ならではで、展示物が並ぶ。

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これにはびっくり。
黄緑色の孟姜女が瓢箪から生まれている。
かぐや姫や桃太郎でさえこんなにひどくはないだろう。

実は孟姜女伝説には、孟姜女の出生として瓢箪から生まれたというのがあるらしい。
孟さんと姜さんの二軒が並んでいて、孟さんの家で育った瓢箪が姜さんの家の上で実を成して、そういうわけで割ってみたら女の子が出てきた。
そこで両家の姓をとって、孟姜女、となったとか。

それにしてもかわいいとは言い難い。
もしこんな子供が出てきたら、妖怪だと思いこそすれ、美女になるなんて思わないだろう。

このあと、隣りの建物では美しく成長した孟姜女が展示されていたが、肌は真っ白だった。
どういう発育の過程で黄緑が真っ白になったか気になるところだ。

案内板には「海眼」の文字。
海眼ってなんだ?と思い向かってみた。

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これのことのようだ。
この岩の下には汚れた水たまりがある。
この水たまり、海と繋がっていて湧き出す海水は枯れることがないのだそう。
夫を失って嘆き悲しんだ孟姜女は、ここから海に飛び込んで、大海に現れたのだとか。
岩の上には、嘆く彼女の石像。
どこどこと繋がっている泉、とか洞穴…日本にもよくある話ですが、もう少し信憑性の余白が欲しいものだ。
こんなに汚れて、さらには底が見えている水たまりでは、海と繋がっているなんて信じたくともどうやって信じていいものか。

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一番奥には、万里の長城をイメージしたこんなミニ長城が作られている。
長城建設で夫を失った孟姜女を祀る廟に長城とは、これでは単なる嫌がらせではないか。
彼女はきっとこんなもの見たくもないだろうと思う。

こうして約束の16時より前に、駐車場に戻って来た。
16時少し過ぎにタクシーはふたたびやって来た。
「角山长城行けないかな?」 ダメ元でまた聞いてみた。
「間に合わないよ」 やっぱり。
「遠くからでも見れないかな?」
そう言ってみると、あれほど頑なに「無理」を貫いていた運転手さんが少し柔らかい態度になった。
「チケット売り場まで行ってみるだけでもいい?」
「うん、いいよ」
正直、下から見るだけでもいい。
「じゃあ、着いたら何時までやってるか聞いてあげるよ」

そうして角山长城の入り口まで辿り着いて訊いてみると、
「18時まで」 とのこと。
なら全然問題ない。現在、16時半。
ロープウェイが架かっているようで、ロープウェイは16時半で終わってしまうので自分の足で降りてこなきゃいけないよ、とのことだった。それも全然、問題ない。
「待ち合わせは17時半にここで。18時までは待つよ」 運転手さんはそう言った。
「わかった、できるだけ早く戻ってくるよ」
「急がないでいいから」
そうして入り口で写真まで撮ってくれた。

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こうして角山長城の登山が始まった。

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向こうには、山肌に沿ってうねうね伸びていく長城が確認できた。
こうして見ると先はまだまだ長い。

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目的地はあのてっぺん。

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最初は階段もなく、なだらかな坂道が続いて行く。
周囲には緑が鬱蒼とした山々。
その緑に埋もれるようにして古い烽火台が見えた。
かなり古いものだということはわかった。

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徐々に階段が傾斜を増していく。
階段は古いもので、一段一段は整っていなかった。
高さがまちまちなので、登るのが少し大変だ。

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けっこうな傾斜で、高所恐怖症の私は体力よりも精神面の方がアラームを鳴らしていた。
向こうには先ほど見つけた古い烽火台が写る。
時間はすでに遅く、観光客もまばらだったが、ここで一組のカップルに追いついた。
高さが怖いので、こっそり二人に便乗して恐怖感を紛らわせようと考えた。
何かあったら助けを求めよう。

必死になって登って行くと、ひと段落したところにちょっとした物売りがいた。

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ここで買った西瓜に違いないが、おすそ分け?
こんなところで西瓜を食べる余裕なんて私にはない。
すでに後ろを向くのが怖くなっていた。

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この辺りで限界がきた。
階段がかなり不安定になってきたこともある。
この先もう少し頑張ることは、もしかしたらできたかも知れない。
けれど、その先に見えるあれやこれやにとても挑戦できるとは思えなかったので、ここで引き返すことに。
私はこの長城をちょっと覗いてみたかっただけであって、決して登り切ってみようとかそんなつもりは最初からなかったのだ。

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これが下の景色。
駐車場は遥かずっと向こうだ。
今、この目の前に広がる風景は私だけのものだ。

登るのはたいへんだ。
しかし、これを造った人たちがいるのだ。
しかも、重機などない遥か昔に。
こんな高所は逃げ出したいほど怖い。
しかし、こんな場所にこんなものを造り上げた人たちがいるのだ。
信じがたいことだけども。

先ほどは登って来た5人くらいのグループとすれ違いになった。
とても元気なグループで、わいわいしながら登って行く。
私が諦めた時点のさらに上に、ふざけて怖がりながらも登って行く。

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私に登る気をなくさせたてっぺん。
そこには迂回するように鉄製の階段が設けられ、そこでさえ高度感はそうとうなものだろうに、その先上に登って行く為に円形のはしごが架かっていた。
こんなの登って行けるわけがない。
辛うじて登ったところで、降りれなかったらどうするのか。
あの円形のはしごを見て、私はためらうことなくリタイアを決めたのだ。

見ると、先ほどのグループは早くもそこに辿り着いて、あの円形のはしごに取り掛かっていた。
中国を訪れてさまざまな観光地で出合う、この底抜けの明るさ。
いつも羨ましく思うのだ。

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太陽が傾いていく。
けれど、実際の日没まではまだまだありそう。

約束の時間17時半を少し過ぎて、タクシーはやってきた。
本当は山海関まで行ってもらいそこからは安いバスで秦皇島へ戻るつもりだったが、運転手さんが言うのでそのまま乗せていってもらうことに。
すべて合わせて200元。
待っててもらったわけではなくて、時間になったら来てもらう形だったので、そう考えると少し高いかな。

秦皇島に着いて、昨日と同じ繁華街「太阳城」まで行ってもらった。

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近代的なビルが並ぶ間に、どことなくレトロな風合いの建物も混じる。
写真に写る数台の電動車。
中国ならあらゆる都市にこれを見る。
スピードはないし、タクシーよりちょっと高い。乗り心地ももうガタガタなんだけど、これが楽しい。
ちゃんと窓もあるしドアも閉まる。冬でも雨でも平気。
けれど、こうした電動車はみな年季が入ってぼろぼろであることが多い。
今壊れてもおかしくない。いつも思う。
運転しているのはおじさん、おじいさんであることが多く、こんなのも時代と共になくなっていくのかな、なんて想像すると寂しい。
中国からこれが消えたら私は嫌だ。
しかし、ここ秦皇島では新品の電動車をたびたび見つけた。
キズひとつないピカピカの塗装に、魚かイルカか、そんな海の絵が描かれていた。
それを見て、ああまだまだ頑張ってくれそうだなと安心したのだ。

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おじさんとおばさんの二人で果物を売っている。
もう少しで夕ご飯だけど、おなかが空いたのでハミ瓜を一切れ。
「これ何?」
ここだけでなく、こんなふうな蓮の茎はあちこちで見かけた。
種を食べるのだそうだけど、見た目が気持ち悪い。
おばさん、覗き込んでいたお客の男性にも、
「これ食べるんだよ~」 と教える。
「僕は中国人じゃないか~!」 と男性。
すこしほっこりした空気が流れた。

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昨日とは違うルートを通ってみたら。
今日はお祭りかと思うほどの賑わいだった。夜市がどこまでも続いている。
秦皇島はそんなに大きな都市には見えないけれど、ここもあそこもどこからこんなに人が湧いて出てきたものか。

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夕食に選んだのはあろうことか重慶火鍋。
どうしても火鍋が食べたかったのだ。
しかし、頼んだ羊肉と牛肉は焼き肉のように分厚い。
私にとってこれはNGなので、実は少し残念だった。
日本人は珍しいのか、女性店員さんがかわりばんこに私のテーブルまでやってきて話しかけてきてくれた。
「おいしい?」
「一人で来たの?」
「留学?」


ホテルの前には巨大な中国郵政のビルがあった。
まるでバベルの塔のように、天を貫いている。
今夜は靄がかかっているようで、ビルのてっぺんは霞んでいた。
中国ではどこもかしこもこんなバベルの塔が林立している。
てっぺんがよく見えないのは、そもそも靄のせいなんかではなくて、もしかしたらビルが高すぎるからなのかも知れない。
もしそうだとするならば、本当に倒れてしまうこともあるかもしれない。
ホテルの部屋から窓の外を眺めながら、そんなことを思った。


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まゆ

Author:まゆ
中国が大好き。お酒も大好き。
中国へ行く度に、スケールの大きさに圧倒されます。各地を旅行し街歩きし、体感したことを綴っていきます。

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