2016-09-06

庫車旅行三日目~その三~

キジル千仏洞の見学を終えて、出発した。

この辺りにはいくつもの千仏洞が散らばっていて素晴らしい。
ガイド本に乗っているものだけでも、このキジル千仏洞の周辺には、“克孜尔尕哈千佛洞”(キジルガハ千仏洞)、“库木吐拉千佛洞”(クムトラ千仏洞)があり、見所だ。
旅行計画時、私はこの三つすべてを見学したいと思ったし、滞在時間が短いといえども、私の考えでは車さえ確保できれば十分回れるはずだった。
相談役のロンさんへは、滞在時間を考慮しつつ自分の目的と要望を伝えていたが、旅行数日前に返ってきたおおまかな日程の中にこれら二つの千仏洞は含まれていなかった。
「ガイドブックを見てそのすべてを回る必要はない」 そう言った。
そうだな、たくさんの場所を“クリア”することが旅を満喫することではない。

次の目的地は“克孜尔尕哈烽火台”(キジルガハ烽火台)。
キジル千仏洞からクチャへの帰路、キジルガハ千仏洞の近くに、ひとつの大きな烽火台が残る。
新疆最古の烽火台遺跡のひとつだ。
ここもまたずっと前からの憧れだった。
今まで烽火台遺跡はなんども目にしたことがある。
しかし、昔写真で見たあのキジルガハ烽火台は、そのどれとも違う存在感を放っているようだった。

キジルガハ烽火台に辿り着いた時、時刻はすでに18時を迎えようとしていた。
まだまだ昼間のうちだ。

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この門を通って中を進んで行くと、烽火台がある場所に繋がっている。
しかし、門は開かない。
ヌアーが降りて訊ねてくれたところによると、「現在は非公開」とのことで、入れないと言われたそう。
「マーヨーズ、入れない。行くよ」
大きな目的地だった為、諦めきれない。本当に入れないの?
見ると、別の車は門を開けてもらい入っていく。関係者なの?
「なんで非公開なの?」 訊いてみると、
「中で“仕事”しているから」
調査研究か修理だろうか。
こういう情報がほしいからのガイドではないか。内心思った。
行くだけならタクシーに乗ればいいのだ。
日本からでは現地情報が得にくいから、采配してくれる人間を雇うのだ。
2月の北京旅行の際は、現地旅行会社の車を手配した。
ガイドはなしで運転手だけだったが、日本にいる時にすでに公開非公開の情報を目的地に確認し私に先に報告してくれた。

キジルガハ烽火台は前漢が西域都護府を置いた時に造られた。
高さ13mのまるで塔のような外観を残した遺跡だ。
ここにもひとつの伝説がある。

国王に美しい娘がいた。
ある時、占い師はこう予言した。
「公主は18歳を迎える時に死ぬだろう」
これを受けて、国王は18歳の誕生日までの100日間、この塔に公主を隠したが、100日目のその日、贈られたリンゴを食べて死んでしまった。

なんだか、眠れる森の美女と白雪姫を足して割ったようなお話だ。
先ほどの千涙泉同様、クチャは美しい王女のお話が好きなよう。
いつできた伝説かはわからない。
クチャ王国が滅んだあと、誰かが語り出したものか。
ただただゆったりとした時の流れにまかせて風化してゆく、そんな遺跡の風景にはこういった悲話がよく似合う。
西域でもっとも華やかで栄華を誇ったと言われる亀茲王国。
そんな華やかな歴史とは裏腹に、残る史跡の数々は滅びの儚さを伝える。
栄枯盛衰。
文明はかならず滅びるものだ。
ただその曲線がどのようなカーブを描くかの違いがあるだけだ。
美しい王女が命を落とす。
あらゆる人の涙を誘う。
そこに亀茲国の繁栄と滅びを重ねるのは考え過ぎだろうか。

私たちはキジルガハ烽火台を諦めて、クチャへの帰路を進んだ。
ひょっとしたら遠目にでも望めるかも知れない。
そんな風に淡く期待したけれど、中国はそんな甘くない。
おそらく、入場門を通過してまだまだ先、外部からは見えないように敷地を用意しているはずだった。

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帰り道もまた、外の景色が楽しい。
目を離してしまうのがもったいない。
相変わらずの超スピードだったが、私たちはみな窓を全開にして走った。
みんなで合わせたわけではない。
私はと言うと、ここの景色を風ごと全身に体感したかったのだ。

来た時にも通過した、盐水沟隧道。

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ここまでくれば、もう少しのドライブで行きにも寄ったガソリンスタンドだ。

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切り立つ様な斜面。
その下には川が通っている。
流れているのではなく、通っていると表現するのは、ここには水が流れていないから。
それでもほんのわずかに水たまりのようなものが、見てとれる。
雪解けのシーズンにのみ、ここを水が流れるのだそう。
ここは“盐水沟”(塩水渓谷)。
先ほどのトンネル名はここから来たものだ。
その名が示す通り、乾いた箇所には白く結晶がこびりついている。
この辺りを走る時、この乾いた川はくねくねと道路の右側左側にたびたび姿を見せる。
「どこが盐水沟なの?」
はっきりとした場所が知りたかった私はヌアーにそう訊いた。
「ここもそうだし、向こうもずっとそうだよ」
この盐水沟、あの玄奘が天竺に向かう途中に通過している。
周囲に切り立つ険しい渓谷は、旅人の行く手を阻んだ。
おそらく、玄奘はこの乾いた川の上を歩いて進んだものではないか。
激しい山々を貫くこの一本の道路を覗けば、この風景は玄奘が当時見たものとそのまま同じだろう。

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左右にぼこぼこと山がいくつもできている。
その景観を見るために、何台かの車が脇に停まっている。
ここもまた玄奘が見た風景だ。

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このぼこぼこは、「クチャのピラミッド」と呼ばれている。
なんだかおどろおどろしい気分になる。
遥か昔、ここを通る時、魔物の声がしたのだという。
かつての人々は、こうした場所を「魔鬼城」と呼んで恐れた。

またこうした景観を「雅丹地貌」(ヤルダン地形)という。
雨風の浸食によって残された部分が作り出す奇観だ。
ヤルダンとはウイグル語で、険しい崖を持つ土丘という意味を持つ。

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こちらは行きにも寄ったガソリンスタンド近く。
新疆のガソリンスタンドは鉄条網で囲まれていて、さらに運転手以外は内部に立ち入ることはできない。
給油中、みな外で待つのだ。
果物売りを見ていたら、すぐ横には七色にぎらめくサングラスをたくさん並べて売っている青年がいた。
その間を、よたよたのロバに鞭を打って進んでいくウイグルのおじいさん。ロバ車だ。
私の好きな風景。
写真を撮ろうととっさにカメラを向けると、「ダメダメ!撮らないで」 と中国語で言った。
おじいさんはそれでもペースを崩すことなく、ゆっくりゆっくり、クチャのピラミッドの方に向かって行った。

再び車に乗り込むと、やがて向こうに一面に広がる土まんじゅうが見えてきた。
ウイグルのお墓なのか漢族のものなのかはわからないが、おびただしい数。
そのすぐ横には、真っ赤な絨毯が広げられている。
唐辛子である。
収穫した唐辛子をたくさんの女性たちが広げて干している。
広大なスペースがある中、わざわざ土まんじゅうの横で唐辛子を干す人々が不思議に思えた。
そのすぐあと巨大な煙突を見て、間もなく私たちは市街地に着いた。

クチャ市街に入ると、車は雑多な賑わいに車を停めた。
ここはクチャで一番古い繁華街なのだそう。

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道路沿いにはずらっとお店が並んでいる。ウイグル語のエキゾチックな看板だ。
植物油を売るお店、ナンを売るお店。
中国内地と同様に、同じ商売をするお店が同じ場所に並んでいる。
こんなところに私はいつも中国を感じるわけだが、これでは商売にならないのではないかと思う。
よほど店に自信があれば別だけど、そんなふうにも思えない。
ウイグルも同じかと思うと不思議だ。
けどもしかしたら、同業者が並んでいるからこそお客を拾えるのかもしれない。

このお店の並びの向かいには、小さな市場があった。

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強固な鉄柵で囲まれていて、入り口が一カ所、出口が一カ所、ここからしか入場できない。
私はすんなり入れたが、グリミルはひっかかって身分証の提示と荷物のチェックを受けた。

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中にはさまざまな商品が広げられている。
これは漢方。後ろにはウイグル語が書かれた青い瓶や箱が並んでいる。
なんだか魔法の材料みたいだ。

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大好きなウイグルの食器、ティーセット。
大胆な花柄が描かれたこのデザインが艶やかで好き。
毎日の生活でも使いたい。
そう思うけれど、いつも帰国時には荷物が限界で、それを考えると買えない。

市場の中は混沌だった。
赤いテントの下は、多くの人で賑わっていた。
進んでいくと、小吃のエリア。

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「これ、食べたことある?」
ヌアーが訊いてきた。
「ないよ、これ何?」 そう訊き返すと。
「羊の肺。食べたい?」
「食べる勇気ないよ!」
「なんで?」
私の感覚がわからないようだ。
こちらでは羊は天の恵み。骨までいただき残すところがない。
実は、羊の内臓も肺も食べたことはあった。
けれど、こんな塊で見たことはなかったから。美味しそうにも見えなくて。
ひとかけ、いただいてみた。
小麦粉を練って丸めたみたいな食感と味だった。
もちもちしていて無味に近いけど、なれれば美味しいと感じるかも知れない。

小吃エリアの先には果物売りが並び、その反対側にはドライフルーツが並んでいた。

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まるで宝石のよう。
私は中国に来ると、特に新疆に来ると、こうしたものに目移りしていつまでたっても飽きない。

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これは昨日チャン・イーがくれた土桃子だ。小さな小さな桃。
ウイグルの女性たちが腰かけて並ぶ。
私が珍しそうに目を留めると、みな味見を勧めてくる。
目の前に山になっているのは、みんなが試食したあとだ。

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やっぱり桑葚(桑の実)。
バケツに濃い赤紫をした桑葚がいっぱいになって、それを絞ってジュースにする。
絞ったまんまだから、そのままの味だ。
そのうえ常温だから、日本人には慣れないかもしれない。
私はこのビールもジュースも常温なのが、中国に来たなと実感するので好きになっていた。
日本でも真夏にビール、常温で飲む私だ。
グラスに一杯、ジュースをいただいた。
強すぎない酸味に渋みが、体に染み渡って元気になりそう。

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こんなものも。
これは、ウイグルの工芸品。
木製のヒョウタン型の下部は、華道で使う剣山のようにトゲがいっぱい。
これはナンの表面に模様をつけるものだ。

新疆に来ての私の約束は、ウイグルのアイスクリームを食べることだ。
ウイグルのアイスクリームは本当に美味しい。

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あちらこちらにこんなアイス売りを見かける。
ガラスケースの中には、山になったアイス。その下にはボウルが敷かれ中には氷が入っている。
冷凍庫ではなく、こうして保存しているわけだ。
太陽が出れば、結構な暑さになる。
けれどもこれでなんとかなるようで、驚き。

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頼んでみた。
思っていたアイスクリームではなく、ここのはみなシャーベット状だった。
冷凍庫ではなくガラスケースと氷で保管されたシャーベットは溶ける寸前だった。
でも、アイスってこれぐらいの状態が一番美味しいとも思う。

テーブルに座って食べていたら、突然雨が降り出してきて、慌てて屋根の下に椅子を移動した。
クチャ滞在中、必ず一日一度は雨に遭ったのも、意外だった。
乾燥地帯なのに雨が降る。
雨が降るのに乾燥地帯。
出発前、チャン・イーが言っていたのを思い出した。
「クチャは乾燥してるよ。でもコルラよりは湿度がある」
雨に遭いながらも、私の唇はすでに乾燥でパリパリになりつつあった。

この市場、一角でいろいろな調味料を売っていた。
中身はよくわからなくとも、外国の食品はパッケージを見るだけで楽しい。
その中で見つけた、私には比較的親近感がある調味料。

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「大盘鸡」
新疆ウイグル自治区を代表する料理だ。
大きなお皿の鳥料理、という意味で、具はお店によってさまざま。
鶏肉、唐辛子、ビーマン、じゃが芋、そんな具が入る。
中盘鸡、小盘鸡、なんてのも見かけたことがあるが、やっぱり大盘鸡だ。
その調味料が配合されたのがこの商品。
これと具材を炒めるだけで、お店の味がご家庭で。

去年の5月、コルラのリュウ・レイが旅先までこの大盘鸡の調味料を送ってくれた。
さっそく、袋の裏に書かれた説明書きを読みながら、作ってみた。
材料を見ると、なんと、「鶏一羽」。
中国では普通に手に入るけども、もし仮に手に入ったとしても、私は鶏一羽を処理できない。
スーパーでパックの鶏肉を購入。
調味料全部を使うとすごい量になるので、その一部を使い、さらに嫌いな八角をていねいに覗き、さらに唐辛子をてきとうに取り除いて辛さを調整する。

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そうして出来上がりがこれ。
少ない量作ったつもりなのに、けっこうな量。
大盘鸡とはほんとうに大皿料理なのだ。
唐辛子を抜いたけれど、それでもかなりの辛さだった。
唐辛子は調節したが、山椒は調整しなかった。
長らく作っていないけど、また作って食べたくなってきた。
なにしろ、日本では口にすることができない料理だ。

市場を抜けて、近くのお店へ。
「拉麺食べたい?」と言うので、温かい麺が食べたくて、
「食べたい」と答えた。

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出てきたのはこれ。家常拉面。
今更だが、日本人が考える拉麺は中国にはない。
けど、汤面(スープの麺)が食べたかったので、少し拍子抜け。
それにしても、夕飯時にお酒が飲めないのは物足りなかった。
一人旅の時には、昼間から行動しながら飲むこともあるからだ。

食事をしたのは屋外で、とても気持ちが良かった。
空を見上げると、日が沈んで間もない西の空は、劇的だった。
21時を少し過ぎたばかり。

「明日は10時半にロビーで」
そう約束してホテル前で3人と別れた。
明日の出発時間を考えても、今夜は余裕がある。
これではもったいないなと外に出てみたけれど、辺りには飲食店も商店も皆無に等しい。
唯一ホテルの横に数店。
覗いてみるとさすが新疆で、ワインが幾種類も並んでいた。
中国旅行でワインを部屋で開けることはほとんどないが、せっかく葡萄の産地に来ているのだからここはやっぱりワインだ。
日本に持ち帰るためのを一本と、ありがたいことにハーフボトルがあったので、それとビールを購入。
ホテルの一階レストランでコルクを開けてもらい、部屋に戻った。

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文字通り、至福のひととき。

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椅子の上で足を伸ばしながら、ワインを飲む。
窓の外には、この庫車飯店の旧館が見えた。



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余すところがない…(^^)

羊の肺は食べた事がさすがにありませんね、僕も興味があります。羊の脳を網焼きで食べた事がありますが、多分、日本人が一緒にいたなら目を背けたくなるほどその物でよく食べたなぁと時々思います。まあ、大抵のものは口に運ぶまでが勇気がいるだけで食べると問題ないんんですけどね(たまに例外がありますけど…) 移動の風景が如何にも新疆でホントまた行きたくなります。でも、老婆は新疆は二度と行きたくないと…僕はあの乾燥で鼻腔が痛み、たまたま持ち合わせていたメンソレ-タムで凌ぎました♪

Re: 余すところがない…(^^)

羊の脳、よく食べましたね、私も勇気でないかも知れないです。
でも、美食家で世界中を飛び回っている人の本を読んだのですが、脳というのは美味しいらしいですね。
この市場では、羊の頭と牛の頭がそのまま山積みになっていました。
脳はとりだされているのかはわからなかったです。
それを(多分)かぶりつくんだと思うのですが、「美味しい」とガイドは言っていました。
横に骨だけになったのも山積みになっていましたが、これも勇気が出なくて食べれませんでした。
プロフィール

まゆ

Author:まゆ
中国が大好き。お酒も大好き。
中国へ行く度に、スケールの大きさに圧倒されます。各地を旅行し街歩きし、体感したことを綴っていきます。

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