2017-09-02

満洲里旅行二日目~その二~

予定よりだいぶ到着は遅れたが、それでも満洲里に辿り着ける。
定刻に出発できれば、夕方到着して少し観光しようと思っていたが、遅延によりそれも難しくなった。
観光予定の日をまる一日無駄にしてしまったが、草原周遊三日目に満洲里に戻るのを急いで、残った時間をそれにあてよう、そんなことを考えながら窓の外を見下ろす。

1708128.jpg

窓の下には、「空」があった。
その空は、北京を出発してしばらくもしないうちに、次々と様相を変えはじめた。
午前中に土砂降りだった北京は、搭乗口で待機している間に陽の光が指すまでに天候は回復した。
雲が全体にかかった北京。
雲は引き、飛行機の窓から見下ろす地上の様子は、街の集まりからやがて自然地帯へ。
「今日こっちも雨降ってる、中国は全国的に雨だよ」
そんなふうに言っていたフェイフェイ。
私がずっとチェックしていた現地の天気予報も、軒並み悪天候を予想していたから、上空から「空」を観察する。
しばらく大地が見渡せたが、やがてぽつぽつと小さなかたまりの雲が現れ、そのうち激しい形状をした積乱雲を通り過ぎた。
雲は自然が生み出したエネルギーだ。
様々な雲の様子を目にしながら、私は地球のエネルギーを感じていた。

雲がない場所は、地上からは青空が見えているはず。
そう考えると、天候もそう悪くないような気がした。
飛行機で移動しているんだから、こんなの全然まだ現地の上空ではないのだけど。
青空のかけらも見られない曇天、雨、それよりもできれば、雲があったっていいから晴れがいい。
晴れてる晴れてる、そんな自分への励ましを裏切るように、雲がぷかぷか浮いていた空は、そのうち真っ白い大海のようになっていった。

時計を見て、そろそろ満洲里に向けて下降する旨の案内が入るはずなんだけど、とそわそわし始めた。
出発が思ったより遅れ、空港でリュウ・ウェイさんが送り出してくれた運転手さんが待ちくたびれているだろう。
ところがその時、客室乗務員によるアナウンスがはいった。
「先ほど入った情報により、満洲里は現在雷雨で安全に着陸することができないことがわかりました」
なんと。
「そこで当機は、フルンボイル・ハイラルへ向かうことを決めました」
なんてことだ。
違うところに降ろされてしまう。
海拉爾(ハイラル)は、満洲里の東隣りの街で、そこにも空港がある。
「どのくらい離れているんだ?」
乗客から質問が飛び、客室乗務員は、
「300㎞です、でも私も行ったことがないんです」
なんて答えている。
しかし実際は、満洲里との距離は200㎞。

私の草原周遊計画では、満洲里から東北方面、ロシア国境沿いにスタートし、そのまま東側にぐるりと弧を描き、最終日にハイラルを通過し西に向かいふたたび満洲里に戻ってくる予定だった。
つまり、最後に通過する街に最初に降り立ってしまうことになる。
円を描いたルートなので、ハイラルからぐるりと一周するのもありだろう。
けれども、今夜と帰国前夜のホテルに帰りの飛行機もみな満洲里で押さえてある。
計画がくるう。
それよりも、満洲里に迎えに来てくれている人がいる。
三日間の車を確保していてくれる。
どうしたらいいのだろう?
やっぱり時間ロスだが、今夜のうちにハイラルから満洲里に向かい、今日のことはなかったことにして当初の計画通りのルートをとるか。
幸いなことに満洲里とハイラルはそう遠くないので、頑張れば今日のうちに到着することができる。
どのみち今この上空にいて、私にできることは何もない。

白くかすんだ大海は、やがて浅瀬にのるように、うっすらと大地の表情を見せ始めた。
時刻は6時。
広がる大地の真ん中に、うねるように細かく蛇行する光の筋が見える。
うすぼんやりとした広がりのなかに、その光の筋だけは浮き上がるように際立ってみえた。
西に傾いた太陽の光を受けて、その光の筋はまるで虹のように様々な色彩を含んでいた。
トラブル続きなのも忘れ、しばらくうっとりとした瞬間だった。

1708129.jpg

機体は下降を続け、やがてハイラルの街が近づいてきた。
広がる草原の中にのびる道や、その道を繋ぐようにして建つ建物は、まるで何かの回路図のよう。
突然その中にはっきりとそれとわかるものを見つけた。
白い塔と寺院。
あれは最終日にハイラルから立ち寄ろうとしていた仏塔だ。

17081210.jpg

7時前というとき、ようやく飛行機は着陸した。
予定していた満洲里ではなくて、ハイラルに、だけど。
着陸してアナウンスが入る前に携帯の電源を入れて、いそいで満洲里のリュウ・ウェイさんに事情を説明した。
そうしたら3分後。
「同僚をその空港に向かわせたから、出口で待ってる」
手際の良さにびっくりだ。
上空から確認したハイラルの街を見て、いったいまずどこに向かえばいいんだろう、なんて途方に暮れていたから、まさか空港に迎えに来てくれる人がいるなんて思ってもいなかった。
いつものことだけど、着陸したからといってすぐに飛行機を降りれるわけではない。
時間がかかる。
まだ飛行機の座席という時に、リュウ・ウェイさんから再びメッセージが。
「どこにいる?空港の出口で待っているけど会えないって言ってるよ」
早すぎる~!

やっとこさ飛行機を降りてみると、そこは預け荷物受取場所ではなく、搭乗フロアだった。
…なんで?
状況がよくわからないでいると、係員が説明した。
「今日は満洲里へは行けません。飛行機で改めて満洲里に行きたい人はこちらに。自分で向かう人は係員に申し出て荷物を受け取ってください」
よくわからないで確認すると、ここで解散したい人は、クレームタグ(の付いた搭乗券)を係員に渡し、搭乗口から一階に降りて自分の荷物を飛行機から降ろしてもらうよう申告するように、とういうことだった。
一階に降りてみると、数名の乗客が自分で行動することを選択したようで荷物を待っていた。
しかしこれがいつまで経っても荷物が出てこない。
どうやら係員同士で話が伝わってなかったのか、
「なに?荷物を出してほしいのか?」 なんて言っている。
度重なるトラブルで満洲里のフライトの乗客同士でもチームワークができ始め、私も何度か話しかけられた。
えらいこと時間がかかり、荷物と本人を照らし合わせる作業をし、ようやく空港をでることができたとき、外はすでに真っ暗になっていた。

辛抱強く待っていてくれたのは、リュウ・チャオさん。
体格のいい男性だ。
車まで行き、この後のことを相談した。
そして、今夜はハイラルに泊まり、彼が運転手として明日から三日間草原をぐるりと回ってくれることに。
私は用意してきた地図を見せながら、通過したいポイントを伝えた。
その結果、本来のルートを逆走し満洲里へむかうことに。
三日目の明々後日ではなく、二日目の明後日の夜には満洲里に戻る。
そして三日目は、今日できなかった満洲里市内観光と、円の欠けた部分である満洲里ーハイラル間にある観光ポイントまで出掛けてみることに。
これらはリュウ・チャオさんの提案をもとに決めた。
提案はしてくれたがあくまで提案で、要望があれば聞く、そんなスタンスを感じ、これから三日の旅程に対する不安は消えた。

17081211.jpg

空港前には、暗闇にかがやく人物像が立っていた。
「成吉汗ってわかるか?」
リュウ・チャオさんは突然そう言って、一瞬わからなかった。
「あぁ、チンギスハンだね」
今回まわる草原は、チンギスハン縁の場所である。
「あの二人の女性はね、チンギスハンのお母さんと奥さん、彼にとってもっとも大事だった女性だ」
その人物像を指してそう説明した。
奥さんは何人もいただろうから、その誰だったかはわからない。
名前を教えてくれたが、私は歴史に疎くわからなかった。
けれども、チンギスハン本人ではなく母親と妻の像を建てたことが興味深い。

空港周辺は真っ暗だったが、しばらくもしないうちに向こうにそれは煌びやかな街並みが姿を現した。

17081212.jpg

残念ながら車の中からその感動を写真に残すことはできず、これがかろうじての一枚。
私は思わずため息をし、
「こんなに奇麗だなんて思ってもいなかったよ…」 とつぶやいた。
「そうだ、夜はとても奇麗なんだ。満洲里はもっと奇麗だよ」
二日時間をロスしたことや様々な疲れも一気に吹っ飛び、
「やっぱり、来てよかった」 と心から思った。
暗闇から、黄金に輝く街に向かって徐々に徐々に近づいていくあの興奮と感動は、今でも忘れることができない。

街に入ると、左右に眩い金色の建物が立ち並び、目の休まる暇がない。
途中で左手に大きな広場を見て、
「あれはチンギスハン広場だよ」と教えてくれた。
みんなここでダンスするんだ、というリュウ・チャオさんの言葉の通り、そして中国各地と同じように、そこには多くの人が集まり「公園ダンス」をしていた。
「やるのは年齢が大きい人ばかりだけどね」
中国はとても大きな国で、各地にそれぞれ様々な文化や歴史、風俗がある。
言葉も違えば、食文化も違えば、民族も違う。
それなのにこんな端っこのこんな小さな街も、公園ダンスは共通なんだ。
そんなことを考えておかしくなった。
金色に輝く欧風の建物は中国においても異国情緒満点だったが、その中でこのダンスをするおばちゃんたちを見て、ここが間違いなく中国であることを知る。
金色の建物の向こうに、発光した点々がふわふわ夜空に漂っていた。
「あれは凧だ、日本にもあるだろう?」
あるけどやる人は少なくなったし、こんなふうに街中ではやらない。
やっぱり、ここは中国だ。

ホテルはリュウ・チャオさんにお任せして選んでもらった。
ランクなどを訊かれ、三星くらいでとお願いしたけれど、今はオンシーズンでホテルをとるのが難しいみたい。
携帯で色々探してくれたけどなかなか捉まらず、
「部屋を見てみてダメなら替えてもいいから」
と、とりあえず一軒のホテルに行ってみることに。

17081213.jpg

行ってみたのは、商店や飲食店が立ち並ぶエリアの裏道に入ったところにあるホテル。
部屋を見せてもらって、十分眠れるので決めた。
リュウ・チャオさんは、エレベーターのないホテルの階段を重い荷物を運んでくれた。
「明日は8時半に下で」
そう約束して、戻っていった。
と思ったら、しばらくしてノックの音。
ドアを開けてみると、リュウ・チャオさんが煙草とライターを差し出した。
私のためにわざわざ買って、また階段を登ってここまで来てくれたのだ。
仕事というより人としての優しさと気配りを感じた。

「早く休んで」
そう言ってくれたのに対し「わかった」と答えた私だったが、私には悪癖があった。
夜の散歩だ。
早く寝るんだよとか、危ないから出ちゃダメだよ、と言ってもらっても、わかったふりをして抜け出してしまう。
時刻はまだ21時で、遅いうちにははいらない。

大通りに出て、先ほど空港からやってきた道に向かうと、大きな橋を越えた。

17081214.jpg

金色の街並みに対して、銀色に輝く橋。
ヨーロッパの時計台を彷彿とさせるようなデザイン。

この長い橋を越えれば、そこは先ほどの繁華街とは違い落ち着いた雰囲気。
橋が架かるのは、伊敏河という名前の川だった。

17081215.jpg

黄金に輝くも、そのどれもがすでに眠りについているかのようで建物に人の気配はしない。
途中で道案内の標識があり見てみると、この一本の道は勝利大道という通りだった。

17081216.jpg

その先には先ほどのチンギスカン広場があるようで、まだまだ歩くようだったが、そこまでを目指して行ってみることにした。

17081217.jpg

チンギスカン広場には、大きな記念碑と騎馬民族を表した石像があった。
記念碑のてっぺんは駆ける馬に乗った人。
チンギスカンかな。

気温は涼しく寒くなく、ちょうどよく気持ちがよかった。
満洲里は雷雨だということでこの街にやってくることになったが、それはある意味正解だったかもしれない。
こちらの天気はよく、星は見えなかったから曇っていたのだと思うけれど、とても心地よい気候だった。
200㎞の距離でこんなに天気が違うんだ。
当初の予定でもこのハイラルを通過することになっていたが、宿泊はここではなく、街自体は通り抜けるだけの予定だった。
こうして不測の事態が起きたからこそ、このきれいな夜景と心地よい夜の空気に楽しむことができたのだ。
順調なのもそうでないのもすべて旅行。
起こることはすべて起こるべくして起こることだし、それらはすべて旅の縁。
そう思う。

ここから再びホテルの方面へ。

満洲里含む、内モンゴル東北部一帯に広がる大草原地帯を、「呼倫貝爾(フルンボイル)大草原」という。
フルンボイルはこの広大な自然地帯を示す名称だ。
満洲里は、中国、ロシア、モンゴルこの三国が交わる国境付近にある街で、三国文化の交わる場所だ。
これに対し、ここハイラルは満洲里よりもロシアの国境からは若干離れた位置にある。
建物は欧州の雰囲気だったが、街の中に記された文字にロシア語は見つからず、みな中国語と蒙古語だった。
「ロシア語ないね」
先ほどそう言った私に対し、リュウ・チャオさんは、
「ここにはないよ、満洲里に行けばあるよ」といった。
同じフルンボイルであっても、色彩がぜんぜん違うんだなと思った。

17081218.jpg

欧風のイメージを抱くような黄金の夜景の中には、それでも中国式の建物もあった。
それに街灯に並ぶ中国結びのデザインは、ここがまさしく中国であることを主張しているみたい。

17081219.jpg

橋の向こうには、「呼伦贝尔」(呼倫貝爾)の文字をでかでかと掲げたビル。
ちょっと順序は変わってしまったが、無事にやってくることができたフルンボイル。

その先を進んで、ホテル周辺にまで戻ってきた。
ホテルで別れるとき、リュウ・チャオさんから「おなか空いてない?」と訊かれ、「空いてないから大丈夫」と答えたけれど、今日は北京南苑空港の牛肉麺しか口にしていなかったんだった。
辺りにはさすが内蒙古で、私の大好きな火鍋のお店が並んでいた。
せっかくだから、入ってみよう。

17081220.jpg

昨晩に引き続いての、火鍋。
頼んだのは、牛肉、羊肉、それにキノコ。それから草原のラベルが貼られたフルンボイルビール。
内モンゴルは放牧の地だから、こうしたお肉は絶対おいしい。
至福のひとときを堪能し、会計をしてみると、
「割り引いておいたよ」
レシートを見ると、たしかに割り引かれている。
それから店員さんが奥から何やら箱を持ってきて、私にくれるという。
中身は、金属製に柄が施されたそれなりにしっかりしたスプーンとお箸のセットだった。
そういうキャンペーンだったのかわからないけれど、中国でこういう経験をするとは思わず得した気分。
店員さんもみな親切で、もし次機会があったらまたぜひこのお店に来たい。

17081221.jpg

ホテルに戻り、近くの商店で買ったハイラルビールを飲んだ。
WiFiに接続しようとパスワードを探すと、そこには。
「果物の皮、焼餅、パンの屑で床を汚さないこと。汚したら罰金です」
汚したら罰金はわかるとして、その具体的な指示につい笑う。
果物の皮や、小吃の屑が散らばる様子が、容易に想像できる。
あぁ、やっぱりここは中国だ。


クリックしていただけると励みになります☆
↓↓↓
にほんブログ村 旅行ブログ 中国旅行(チャイナ)へ
にほんブログ村
スポンサーサイト

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

プロフィール

まゆ

Author:まゆ
中国が大好き。お酒も大好き。
中国へ行く度に、スケールの大きさに圧倒されます。各地を旅行し街歩きし、体感したことを綴っていきます。

最新記事
最新コメント
カテゴリ
月別アーカイブ
最新トラックバック
クリックしていただけると励みになります↲