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2018-08-23

38日間周遊 〈25日目〉 酒泉

2018年7月24日、西域は夜になるのが遅いので、ついつい夜更かしをしてしまう。
今日は現在いる嘉峪関のすぐ隣、酒泉へ向かう。
西安からの夜行列車で、嘉峪関より一つ前に通過した駅だった。
嘉峪関から酒泉までは近いので、バスが出ている。そのバスを利用するつもりだ。

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地球の歩き方の地図をコピーして持ってきていた。
そこには酒泉行きバスがある場所が記されていたので、それを参考に歩いて行った。
宿泊した酒鋼賓館から大通りである新華路を南下していくと、やがて蘭新公路という通りに交わる。
その交差点にバスがあるということだったのだが、あるのは不自然に待機したタクシーのみ。
おかしいな、と思い交通整備の人に訊ねてみると、「もう少し歩いていったところ」と言い、この蘭新公路を左、つまり東側の方向を指した。

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ところがこれを聞いてタクシーがしつこく勧誘しはじめた。
「酒泉は広い、タクシーで行った方がいい」
そういうわけでここにタクシーが待機していたんだ、とわかった。
私はかたくなに拒否し、バス停へ。

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蘭新公路を曲がって数十メートルいったところには知らなければ見落としてしまうような、バス停があった。
「嘉酒公交站点」これである。
停車駅を見てみると、私が宿泊予約している酒泉賓館にも停車するみたいで好都合。

バスはなかなか来なくて、よし一服でもするかというとき急に姿をあらわした。
酒泉までは30分ほどかかるが、これで3元なのだからありがたい。

酒泉に入ってからさまざまな停車場があるので、自分が下りるべき酒泉賓館を見落とさないように注意していた。
やがてバスはあるところで停まり、出発し、出発したところで少し離れたところに酒泉賓館の建物を見つけた。
「酒泉賓館で降りたいんだけど」
慌ててそういうと、バスは停まってくれた。

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バスの停車場はこんな感じなので、バス停名となかなか一致しない。運転手さんに訊くしかない。

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宿泊する酒泉賓館。
中国では外国人が宿泊できるホテルは限られている。
認可されていないのに泊まれる場合は非合法に宿泊している自覚が必要になる。
しかしある程度の規模のホテルはそれを好まないので、たとえばインターネットのサイト上で予約をするような場合は、渉外ホテルしか予約をすることができない。
酒泉はなかなか選択肢が狭くて、嘉峪関もそうだったけれどこれ以上安いホテルの選択肢がなかった。
だいたいその地名がついた**飯店、**賓館というのはそれなりの老舗だったりして高い分外国人が宿泊できる場合が多いのだけれど、一度酒泉飯店に予約をしたら後日不可の返事が入ってしまい、この酒泉賓館に決めることになった。

泊まることになったのはこの横にある旧館のような雰囲気の低い建物の方。
景観を楽しみにしていた私は、少しがっかりだった。

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さっそく散策に出てみることにした。
ホテルから大通りを進むと、その先には街のシンボルである鼓楼があるはずだった。
この鼓楼を目指して歩いていく。


この酒泉もまた、シルクロード上の重要な都市だ。
北にモンゴルの砂漠地帯、南に標高5500m超を誇る祁連山脈、そしてその先はすぐ青海省、という位置にある。
長さ1000㎞にも及ぶ河西回廊の重要な交易、軍事拠点として発展したオアシス都市である。

そしてこの酒泉を有名にしているもう一つの要因は、「夜光杯」だ。
夜光杯は唐代の漢詩、王翰の涼州詞によって日本人にも多く知られる。

葡 萄 美 酒 夜 光 杯  葡萄の美酒夜光の杯
欲 飲 琵 琶 馬 上 催  飲まんと欲すれば琵琶馬上に催す
酔 臥 沙 場 君 莫 笑  酔ひて沙場に臥す君笑ふこと莫かれ
古 来 征 戦 幾 人 回  古来征戦幾人か回る


学校の授業のテキストにもなっているから、ほとんどの日本人が夜光杯という言葉には出合ったことがあるはずだ。
夜光杯なんて、なんとも美しい名称をもった杯。
いったいどんな様子をしていたのだろう。
私も中学生でこの漢詩をテキストで見かけたときに、そんなふうに想像して胸ときめかせた。
歌われているのは切なく悲しい雰囲気なのだけど、私の想像はそちらよりも、夜光杯にそそがれた葡萄酒、そして夜空にかがやく月だった。

この夜光杯というなんとも魅惑的な名称の器は、実は実際に存在する。
ここ酒泉はその夜光杯の産地で、というのも夜光杯というのは、酒泉の南に位置する祁連山脈から採掘された玉を薄く削ってつくられた玉器のことをいう。
祁連山脈からは深緑色の美しい鉱石が採掘される。
この鉱石をつかったもののみを夜光杯と呼ぶので、酒泉は夜光杯のメッカと言える。
しかし実のところ、涼州詞に歌われた夜光杯が、実際はどのようなものだったのかはわかっていない。
つまり現在のこの酒泉の夜光杯と、夜光杯の名を知らしめた涼州詞のそれが、同じだったかどうかは、わからないのだ。
それでも酒泉の夜光杯は、王翰が歌ったうつくしい詩の世界観とまったくそぐわないうつくしさを持っていると私は思う。

9年前に西安を訪れた時、それが夜光杯を手にする初めての機会だった。
西安はシルクロードの入り口だから、市内にはそれを売るお店があった。
購入したものは少し厚く光を通さないものだった。
夜光杯は鉱石を削って作られる。
薄ければ薄いほどうつくしくて高価とされるが、その反面非常に割れやすい。
そのため、質のよい夜光杯は酒泉から離れれば離れるほど、手に入らなくなる。
また、偽物も多い。
西安で手に入れた夜光杯が厚かったのは仕方ないことであり、それはそのまま酒泉からの距離を示している。
この時は、もっと西域なんて行けるはずもないと思っていたから、西安で購入した。
嬉しくてたまらなかったのを覚えている。
そしてその四年後、敦煌へ旅行することになった。
西安よりもずっとずっと西である。
敦煌は甘粛省の西端、もう少しで新疆ウイグル自治区という場所にあるシルクロードのシンボル的オアシス都市だ。
酒泉に比較的近いため、ここにはいたるところに夜光杯を売るお店があった。
ここで購入した夜光杯は、西安で買ったものとは比較にならないほど薄く上質だった。
そうして今回、ようやく、本場の酒泉にやってくることができた。
ならば、ぜひとも夜光杯を買って帰りたい。
私の夢だった。

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鼓楼に向かって歩いて、さっそく夜光杯を売るお店がちらほら。
けれどもホータン玉や翡翠のように、質もさまざまだし偽物も多いということなので、信頼できるところで購入したいものだ。

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日差しの厳しい酒泉の街に歩き疲れ、鼓楼の手前に屋台が建ち並ぶ美食街を見つけたので入ってみた。
そこで一つの食堂を選び、屋外のテーブルでお昼ご飯にすることに。

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頼んだのは、炒寛麺というもの。
「ここの特色料理?」と訊いているとそうだと言うので、これにしてみた。
麺は名前のとおり幅広な麺で、これが数㎝の長さに切られたものが野菜や唐辛子、にんにくなどとともに炒められている。
ソースのベースはトマトだと思う。それが一緒に炒められたピーマンと交わってとてもおいしい。
中国西域にはトマトやピーマンをつかった麺料理が多い。新疆の拌麺もそうだ。
砂漠の過酷な自然環境は、これらの野菜をおいしくさせる。
私は中国西域のこうした料理が大好物だ。
けれどもこの炒寛麺、唐辛子がかなり効いており、とても辛かった。
さらに油が多く、中国入りしてから脂っこい食事が続いていた私は、これは太る一方だと少し焦る。
一緒に合わせて飲んだのは、黄河ビール。

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食事を終えて、鼓楼へ。4世紀半ば、前涼時代に建設されたと言われているが、現在のものは清光緒帝の時代、1905年に再建されたもの。

どの街もそうだが、鼓楼はその当時から街のシンボルであり続ける。
私は鼓楼が今も残る街が大好きだ。
その街の変化を、ずっとそこに立ち続けながら、見守ってきた。

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この鼓楼がおもしろいのは、四方にある門額だ。
東西南北に配置された門額。

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東側は、「東迎華嶽」。
南側は、「南望祁連」。
西側は、「西達伊吾」。
北側は、「北通砂漠」。

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東には華嶽を迎え、南に祁連山脈を望み、西は伊吾(哈密)に達し、北は砂漠に通じる。
酒泉がどういう場所であるのかを伝えている。

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この鼓楼から東に曲がったところに、夜光杯の制作場所があり見学できるのだと、地球の歩き方には書かれていた。
その場所には確かに夜光杯のお店があり、少し高級そうな雰囲気を出して他のお店とは一線を引くようだった。
非物質文化遺産、創業1956年の文字。

入って制作現場を見学できないかと訊いてみると、ここでは制作していないし、制作現場は非公開とのこと。
残念だけれど、このお店は由緒正しいお店と踏んで、ここで買い物していくことに。
お店の人は、これは価格が同じだけれどこちらの方が質がいい、こちらは安い分質はよくないからお勧めしない、など対応がよかった。

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夜光杯の原料になる玉の特徴として、磁性を持っていることがある。
本物は磁石に吸いつくのだ。
磁石を近づけてみると、このように吸いついた。

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また、店員さんは夜光杯に水を注いでみせた。
夜光杯の形状により、なみなみと注いでもこぼれることがない。

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夜光杯のうつくしさは、なんといっても光に透かしたときのかがやきだ。
光に透かすと、自然が生み出した色の濃淡と模様が、まるで宇宙のかがやきのよう。
薄ければ薄いほどうつくしいとされるのはこのためである。
夜光杯を買うならば、薄いものを、が鉄則になる。
また天然の鉱石が持つ模様なので、一つとして同じ模様はない。
だから同じ価格、同じ形、同じ質でも、一つひとつ見比べて気に入ったものを選びたい。

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定番はこのかたち。

私は中国語のQ先生へのお土産には小さな茶碗型一対、自分用には定番タイプの小さめのものを一対購入した。
一対で400元から700元前後。
安くはないが高くない価格だと私は思っている。
小さめの杯を選んだのは、これでジャオユーさんと白酒を乾杯したいと思ったからだった。

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9年前、西安で夜光杯をひとつ購入した時、敦煌なんて行けるとは思ってもみなかった。
その4年後、敦煌でさらに質のよい夜光杯をひとつ購入した時も、本場の酒泉に行く機会があるとは思ってもみなかった。
それが今、こうしてもっとも質のよい夜光杯を一対、酒泉で手にする機会を持った。
先のことは誰にもわからない。
けれどもどんなことも、きっと、良くなっていくはずだと思う。
昨日よりも今日、今日よりも明日。
来年はきっと今年よりもすばらしいことが待っているはずだ。
夜光杯を手にふたたび眩しい陽射しの下に出て、そんなことを思った。


西域の夜は遅い。
21時を回ってもまだ明るい。
私がこちらの写真を送ると、ジャオユーさんも成都の今を送ってくれる。
こちらの明るさと成都の夜が同時刻なんて信じられない。
中国はこれだけ広く、これだけ大きく、しかしそれを支配する時間は公的にはたった一つである。

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このあと夕ご飯を探しにふたたび屋台街に出てみた。

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昼ごはんを食べた屋台街はにぎやか。

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鼓楼も夜になればまた違った表情を見せてくれる。

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けれども歩き回ったあげく、どうも気が乗らなくてまたぐるりとホテルまで戻ってきてしまった。
時刻はすでに22時半をまわっており、私は少し急いで近くの串火鍋のお店に入ってみた。

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冷蔵庫の中から自由に串を選んでいい。
会計は明瞭で、この串は一本5元、このお皿は10元、などと決められていて、最後に串やお皿を見て清算する。
静岡おでんみたい。
私はいくつかの串と、羊肉と牛肉を選んで火鍋を始めた。
お店の人は親切で、途中でサービスといって西瓜も出してくれた。

ホテルに戻ったのは深夜だった。
今日もまた、旅行記を打ち込みながらジャオユーさんが持たせてくれたワインを飲む。

「旅行記を書いている時ね、私はもう一度旅行をしているんだよ」
旅行記を書く私は、毎回二度おなじ旅をする。
だから成都の思い出を書き出しながら、私はもう一度ジャオユーさんと出会い、一緒に旅行していた。
「私の中国語でこの感覚が通じるかわからないけどね」
そう言うと、「もちろんわかるよ」と返ってきた。
今とても不思議な感覚で、マーヨーズがまだそばにいるような気がするんだ。
今はただ、あなたが出張か何かで留守をしているだけで、明日にでもまた戻ってくるような気がしてならないんだ。
マーヨーズが感じている感覚と、自分が感じている感覚は、きっと同じだと思う。
ジャオユーさんはそう言った。

やがてワインが少しまわってきて、私は旅行記を書くのをやめた。
ふと思いついて、今まで打ち込んだ成都での思い出を読み返してみる。
まるでまだ一緒に旅行している真っただ中のような気がして、一日一日と帰国日が近づいているのを一瞬忘れた。
けれどもふと窓の外を見ると、やっぱりどうしても、ここは成都からずっと離れた西域の街、酒泉なのだった。

〈記 7月29日 呼和浩特にて〉

参考:
嘉峪関―酒泉行きバス 3元

18年38天旅行◇嘉峪関ー酒泉
北京ー合肥ー紹興ー昆明ー河口ー昆明ー成都ー漢中ー西安ー嘉峪関ー酒泉

⇒ 38日間周遊 〈26日目〉 酒泉 へ続く

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まゆ

Author:まゆ
中国が大好き。お酒も大好き。
中国へ行く度に、スケールの大きさに圧倒されます。各地を旅行し街歩きし、体感したことを綴っていきます。

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