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2019-12-18

宜賓散歩~冬のはじまり④~

2019年12月1日、言い古されたようなセリフだけれど、一年が過ぎるのは本当に早い。今年ももう残り一カ月を残すだけとなってしまった。
蜀南竹海の山荘で12月を迎え、今学期ももうあとわずか。

朝かなり早い時間だった。
ジャオユーさんはまだ暗いうちに起きだし、「マーヨーズ、何やってるんだ、早く起きろ。今日は忙しいんだ」と私を起こした。
彼はいい気なもので、昨夜は20時にはいびきをかきはじめた。とうぜん起きるのも早い。
「もういい、忙しいんだ。朝ごはんの支度してくるから早く準備するんだぞ」
彼は私を放ってフーさんの部屋へ行った。

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化粧をしてフーさんの部屋に行ってみると、もう準備ができていた。
一目で、フーさんではなくジャオユーさんが準備したものだとわかる几帳面さ。
「見ろ!“很漂亮な(美しい)”野菜たちだ」

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山の中、寒い中で食べるインスタントラーメンはどうしてこうもおいしいのだろう。
男二人いて、ぐずぐずしていると麺がなくなるので負けじと箸をのばした。
準備なりなんなり、日本では積極的にそれをやる女性が‟女らしい”と好印象を得る。
中国でも、やっぱりやらない女性よりはやる女性の方が、それは男女というより人として良い印象を得るだろう。
でも悲しいかな、私はあまりやらない。
一応「何かやろうか?」と声はかけるものの、どうせ難しい任務は与えられないだろうとわかったうえでのずるい打算だ。
しかし仕方ないのだ。フーさんと二人で片づけをしたすべてのもの。
ジャオユーさんが階下から戻りそれを一目見て、それをすべて、やり直し始めた。
「これは持っていかない」「これはこうして入れればもっとたくさん物が入るだろう」ぶつぶつ呟いている。
私とフーさんは黙って、それに従う。

今日はここ蜀南竹海をお昼前に出発して大学まで送ってもらう。
出発する前に、周辺を観光して帰ることになった。

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竹の海というだけあり、一面、背の高い竹。
この竹の海を進み、天保洞というルートを進んでいくことになった。
看板には、「上も下も断崖絶壁」と書かれている。
高所恐怖症の私でも大丈夫だろうか。

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三人とも自分のペースで下っていく。

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どんどん下り、やがて現れたのは岩壁がせまるような道。
収納スペースのように水平に入った溝は天然のものだ。
こんなところに遊歩道を作るのもたいへんなことだっただろうと思う。

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“下界”は真っ白い雲だか霧だかに覆われ、いったいどれだけ高いのかもよくわからない。
仙人の世界だ。
凡人の私にはそんな安っぽい表現しか思い浮かばない。

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私たちが進むのはこのような道。
古くからあったルートのようで、ところどころで岩壁に文字が彫られている。
こうした断崖絶壁の道は中国ならではだ。
そして剥き出しになった赤みを帯びた岩石は宜賓ならでは。私のマンション付近の山も赤みを帯びている。

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下界が雲に覆われているのではなくて、今私たちもまた、雲の中にいるんだ。
雲だか霧だかはまるで生き物のように動き変化していく。
先ほどまで見えていた山肌はいつのまにかどこかに消え去り、その代わり別の岩肌の存在を知った。

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三人は会話をすることもなく、黙って写真を撮った。
私好みの距離感である。
おしゃべりしながら旅をするのは楽しいが、黙るところでは黙らないと、何を見たんだかなにも記憶に残らない場合も少なくない。

写真では伝わらないが、かなりの高度感である。
高所恐怖症の私は恐る恐るスマホを向けるが、やっぱり来ると思った。
ジャオユーさんが私を突き落とそうとしてきたのだ。
本気で怒った私をフーさんが笑って見ている。
二人も一度、高所恐怖症になってみればいいのだ。

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中国おそるべし。
いや、本当におそるべきなのは、このような神業がこの広大な中国の各地にあまたあることである。
時代が異なれば人も異なり、そこにある文化なども異なる。
それなのに、おそるべき断崖に文字が彫刻されたり、寺院が建てられたり、桟道が作られたり、そんなのをやろうという発想が各地あまたに存在したというのが驚きだ。
必要に迫られた桟道などならまだしも、「何もここでなくても」なんて思うようなあれこれ。「難しそうだからやめておこう」という考えにはならなかったのか。
けれどもそんなことを考えて、そうとも限らないなと思い出した。
「命じられたら断れない」
そういう一面もあっただろう。
偉い人がこの文字を彫りました。その言葉はイコール、この文字を民に彫らせました。
「中国すごいな~!」そんな私たちの感動とため息と驚きの向こうには、いったいどれだけの犠牲や苦労があったことだろう。

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この竹海は、陽光にまぶしく透かされた竹の美しさが有名なのだという。
しかし水墨画に見るような、こうした真っ白な世界に際立つ深い深い黒に近い緑、これこそ一見の価値とはいえないだろうか。

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ついつい背を丸めて歩く。

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突然、霧が晴れた。
海抜を表した地図のように段々をつくる棚田。
朝日や夕日に照らされた姿を想像した。
農家がぽつりぽつり。

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歩いていくと、トイレに行きたくなった。
二人が先に進んでしまったので、急いでトイレを借りて追いつこうと声をかけずにここに立ち寄った。
おばちゃんに断り中に入ると、ここの食堂の壁は剥き出しになった岩壁だった。まさしく、山肌に張り付いた食堂。
用を済ませ店を出ると、ジャオユーさんがしかめつらをして待っていた。ぎろりとこちらを睨む。
「マーヨーズ!」
「ごめん、ごめん」
そう言いながらサトウキビジュースに引き寄せられると、「ダメだ!」

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小さな小さな滝の後ろを通る。
事件はここで起こった。
地球が一回転したかと思った。ぐるりと世界が回ったかと思うと、激しい痛みが足と腰と右手を襲った。
一瞬なにが起きたかわからず、数秒後、自分がすべって転んだことを知った。
宜賓へ来る前に買ったコートも靴も、泥だらけ。
無意識についた手はひりひりする。
泣きたい気持ち。
ジャオユーさんは手を差し伸べながらも、「なんでこっち側を歩くんだ!あっちの歩道を歩くべきだ!」と引き続き怒りモード。
手にしていたiPhoneを見ると、画面一面に蜘蛛の巣のようなヒビが入っている。
このiPhoneを購入したとき保護シートを貼ってもらったが、これがダメダメだった。以前のエクスペリアだったら落としても無事だったものが、軽く転がした程度でヒビが入り、そんなレベルなので、すでにたくさんのヒビが入ってしまっていた。
でも今回のは致命的だった。交通事故を起こしたフロントガラス状態。
「あ…」
呆然としていると、「大丈夫、保護シートが割れただけ、中身は大丈夫だ」ジャオユーさんはそういいながらシートをバリバリ剥がした。
するとシートの下に現れたスマホ画面本体は、やっぱり同様に蜘蛛の巣だった。「役に立たない保護シートめ」心の中でつぶやくも、気持ちはどんどんしぼんでいく。
ジャオユーさんは、中国はこうした修理が安いから大丈夫だという。しかしその分修理の質が悪かったり信用できないところもあるから、店を選びなさいという。
後日談:結局後日、彼は友達を介して宜賓市街地のお店を紹介してくれた。
友達の友達なのでとても丁寧に対応してもらえ、サービスまでしてくれた。その場で手早く修理してくれ、私が欲しいといったカバーと保護シートまでつけてくれて、80元。
日本でのように初期化されることもなく、しかも目の前で解体してくれるので部品盗難などの心配もない。助かった。

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しかしこの時はまだスマホはひび割れた状態なので、心しぼんだまま歩く。
途中で小さな川が流れ、また意地悪のように高さのある飛び石が橋になっていた。そういえば、スーパーマリオでも私かならずキノコから落ちていたなぁ、なんて考えるべきではないことをここで思い出す。
私はまたへっぴり腰になりながら時間をかけてそれを渡った。
「マーヨーズ、動画を撮るの忘れた。もう一度向こうに行ってやり直して」
鬼の命令が下る。

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こんなふうにして、ぐるりと回り、気が付けばもとの山荘に戻ってきていた。
ここから車に乗りナビをスタートさせると、大学まで所要二時間の表示。
ぎりぎりの到着になりそうだ。
と同時に、突然寂しさが込み上げてきた。
フーさんはまた優しくて、「後部座席で物思いにふけりたいから」と私を助手席に座らせてくれた。物思いにと言いながらも三人でおしゃべりしながら戻ったから、きっと気を遣ってくれたのだと思う。

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様々な話をしながら戻ったけれど、なんだか不思議な気分だった。
「今後マーヨーズと二人で旅行する時に、この車だったらテントをのせたりここで寝たりできる」
ジャオユーさんが振り返ってフーさんにそう言った。
「マーヨーズ、春節に日本に行くことにした。車を用意しておくように」
寂しい気持ちが湧いてきた私の心中などまったく知る由もなし。
ジャオユーさんは私への友達申請が許可されてご機嫌な様子だ。たしかに、彼にとって今の関係は一番理想的に違いなかった。彼氏彼女だとケンカするけど、友達だと仲良くできる。
でも、私、ジャオユーさんの彼女と三人でご飯食べたりする自信はない。やっぱり私の中ではまだ友達になりきれていないよな。そんな苦悩をあれこれ巡らせながら、やがて市内に。
そしてとうとう、大学に到着してしまった。
大学の敷地内まで入り、私の授業する教室まで荷物を運んでくれた。
変な感じ。
いつも授業している教室にジャオユーさんがいる。
彼は、「マーヨーズ、時間がある時には成都に会いにおいで」今日もう何回目だったろう。最後にまた一言そう言い残して、去っていった。
もし会う気があるなら、ジャオユーさんが宜賓においでよ。
本当であれば、楽しい三日間により充電されていなければならない。
しかし一度充電されたはずの私のバッテリーは、急に放電し切れそうだ。
今日は6コマ授業がある。
夜まであるからこんなんではダメなのに。
しかし授業は少し元気ないものになってしまった。

それから数日、どんより寂しい気分が続いた。
不思議なもので、状況がまったく変わらなくても、気持ちひとつで見える景色がまったく変わってしまう。
宜賓へ来てから一人の寂しさを感じることがなかった三カ月。
それなのに、家にいても、道を歩いていても、座っていても、寂しい。
楽しさの後の寂しさ。
それかもしれないし、一度はジャオユーさんを吹っ切ったつもりが、気持ちが戻ってしまったのかもしれない。
やっぱり、一人は寂しい。
楽しさや苦しさ、それからタンスの角に小指をぶつけた、なんてどうでもいいくだらないことを話したり共感し合ったりできる人がほしい。
じゃあ探せば?といっても、誰でもいいわけではない。
しかしやっぱり以前とは状況が異なるようだ。
一週間は少し寂しかったけれども、一週間後はほぼ全開した。
ところがそんな時、「次の週末、成都へおいでよ」とジャオユーさんからお誘いがかかった。
ちょうど大学の女性教員間のあれこれ(女って怖い)に気が滅入っていた時だったこともあり、気晴らしに成都に遊びに行くことにした。
最近は授業外の時間は少し遠出してカフェに行き仕事をしたり旅行記を書いたりしている。
同じ仕事をするにしても、成都のカフェで気分を変えたい。
「火鍋を食べよう。そして白酒を飲もう」
先ほどジャオユーさんから連絡が入ったばかり。
禁酒はもうとうに無効になっているようだ。
日曜には授業があるから朝一で宜賓に帰らなければいけないけれど、限られた時間で楽しんで来よう。
やっぱり彼には感謝しなければならない。
蜀南竹海からの帰路、「白糕気に入った、帰りに買って帰ろうか」なんてつぶやいていたから、お土産に持っていこうか。
そんなことを考えながら荷造りをしている、あの三人で小旅行した三日間からおよそ10日後、成都への出発前夜の今である。

〈記 12月11日 宜賓にて〉

⇒ あとがき ~成都へ~  へ続く

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プロフィール

まゆ

Author:まゆ
中国四川省宜賓市にて生活を始めました。
旅行記に絞ったブログ、一つひとつは旅のあしあとです。

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